2005年4月版

─ 景気調整局面はまだ続いている ─

【1〜3月期の景気再浮上は「日銀短観」によって否定された】
   年明け後、景気は緩やかに再浮上し始めたという見方が、一部のマスコミやエコノミストによって主張されていたが、4月1日に公表された3月調査の「日銀短観」は、明確にこれを否定した。昨年中頃までの回復を主導してきた製造業の「業況判断」DI、「需給判断」DIなどは、12月調査に続いて3月調査でも悪化した。このHPの<月例景気見通し>の2月版3月版で指摘した通り、景気は緩やかに後退している。
   しかし、同じ3月調査の「日銀短観」に出ているように、IT調整の一巡や輸出の回復によって、本年度下期に景気が再浮上するという期待は、企業の間に強い。
   果してそうなるのか。この<月例景気見通し>では、月々の景気指標の中に、その芽が育ってくるかどうかを、注意深く見て行きたい。

【1〜3月期の生産、出荷は3四半期振りに前期を上回る可能性】
   2月の鉱工業生産指数は、前月比−2.1%の減少と今回もまた予測指数(−0.5%)を大幅に上回る落込みを示し、出荷指数は更に生産を上回る同−3.8%の大幅な下落となった。もっともこれには、1月の大幅増加の反動減という面もある。1月と2月の平均は、生産、出荷とも昨年10〜12月の平均をそれぞれ+1.4%、+1.3%上回っている。
   3月と4月の生産予測指数は、それぞれ前月比+0.9%と+3.6%の上昇となっている。実績が予測を下回る毎月の傾向から見て、これ程大幅な上昇にはならないと見られるが、1〜3月期の生産が3四半期振りに前期を上回る可能性は出てきた。
   図表1の生産の推移を見れば明らかなように、昨年5月をピークに年末まで弱含み横這いで推移してきた生産と出荷は、年明け後やや持直しの気配が出ている。

【IT不況に伴なう生産調整は少なくとも年央まで続く】
   しかし、生産調整の中心となっている電子部品・デバイス部門の動向を見ると、2月の生産は前年を−8.8%下回る水準まで抑えられ、在庫は12月から2月まで3ヶ月連続で−8.6%も減少しているが、内外のIT不況の影響で出荷も減少(3月の前年比は−5.6%減少)しているため、在庫率は2月も前年比+45.5%の高水準に高止まりしている。
   また電子部品・デバイスばかりではなく、半導体製造装置の出荷減少と生産調整も続いている。このため、順調な推移を示していた一般機械部門で年明け後出荷が大きく下落し、生産の抑制にも拘らず、2月の在庫は前年比+7.1%まで上昇した。
   IT不況に伴なう電子部品・デバイスや半導体製造装置の生産調整は少なくとも年央まで続き、鉱工業生産もその間は横這い圏内で冴えない動きを続ける可能性が高い。
   生産関連指標を多く含む景気動向指数の一致系列も、50%ラインを上下する動きを続けている。一致系列(改訂値)は、昨年9、10月に50%ラインを下回ったあと、11月から1月まで1ヶ月おきに50%を上回ったり下回ったりしている。生産動向などから判断して、2月は再び50%を下回る可能性が高い(4月6日発表の2月の景気動向指数では、予想通り一致系列・先行系列共に50%を大きく下回った)。

【2月の失業率は再び上昇】
   次に需要動向を見ると、個人消費、設備投資、純輸出など主な需要項目は引続き力強さを欠くが、一段と落込む気配はない。
   2月の個人消費は、1月に寒気到来で冬物が動いた反動で、減少した。2月の消費水準(勤労者家計)は、図表2に示したように、1月に前年比+2.6%の大幅増加のあと同−0.4%の減少となった。百貨店・スーパー・コンビニの販売額合計も、1月に前年比+2.4%の増加のあと2月は−2.7%と落込んだ。
   個人消費の背後にある雇用・賃金の動向をみると、昨年中頃からの緩やかな景気後退を反映して、遅行指標である完全失業率が2月になって0.2%ポイント上昇し、4.7%となった。もっとも就業者数(総務省調べ)は前年比+0.2%、雇用者数(厚労省調べ、図表2参照)は同0.0%と前年水準割れはとまっている。
   3月調査の「日銀短観」を見ると、大企業のリストラは終了し、中堅・中小企業には人手不足感が出てきた。今後生産水準が横這い圏内で推移し、実質GDPもゼロ成長近傍で推移した場合、雇用への悪影響が遅れて出てくる懸念はあり、2月の失業率上昇にその気配が出ている。しかし長期的なリストラが終わっているので、雇用情勢が大きく崩れる可能性は少ないのではないか。

【一時金の増加を主因に名目賃金は微増傾向へ】
   他方、名目賃金の動向をみると(図表2参照)、昨年中は前年比マイナス幅が期を追って縮小していたが、年明け後1月と2月はそれぞれ+0.2%、+0.1%と僅かながら上昇に転じた。これは企業収益の改善を反映した一時金の支給が増えているためである。今年の夏のボーナスも前年を上回る交渉妥結が増えているので、一時金を中心とする名目賃金の緩やかな上昇傾向は続く可能性がある。
   以上の雇用・賃金の動向から判断すると、個人消費の背後にある勤労者所得は、これ以上落込むことはなく、微増に転じる可能性が出てきた。
   但し、本年4月からの国民年金保険料と雇用保険料の引上げ、6月からの住民税・配偶者特別控除の廃止、9月からの厚生年金保険料引上げ、来年1月からの定率減税半減などの国民負担増加が目白押しであり、その可処分所得に対する影響が個人消費にどう出るかが注目される。

【設備投資の増勢は鈍化するが底固く伸びる見通し】
   次に設備投資の動向を見ると、2月の一般資本財出荷は大きく減少し、前年比伸び率を縮小したが(図表2参照)、これには12月と1月が大幅に増加した反動もある。1〜2月の平均を10~12月の平均と比較すると+6.6%の増加である。
   先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、1月に前年比+4.8%の増加となり、10〜12月期(同+1.1%)よりも増加幅を拡大した(図表2参照)。
   3月調査の「日銀短観」によると、05年度の設備投資計画は04年度のような製造業突出型ではなく、製造業と非製造業のバランスがとれた形で、伸びは鈍化しても増勢は維持される計画となっている。
   増勢鈍化は輸出関連の設備投資一巡によるものであるが、設備投資は引続き成長を支えるものとみられる。

【1〜3月期は景気調整局面での若干のプラス成長か】
   3本目の需要の柱である純輸出は、昨年7〜9月期、10〜12月期と2四半期連続して前期比減少し、成長の足を引張ったが(図表3参照)、2月にはやや持直している。もっともこれは、2月の実質輸入が前月比−8.2%の減少と実質輸出の減少(同−5.1%)を大幅に上回る落込みを見せたためである。特殊要因の可能性もあり、3月を見ないと1〜3月期の判定は出来ない。
   傾向としては、中国・米国の成長減速やIT在庫調整などから輸出が鈍化する動きは続いているのではないか。
   以上を総括すると、1〜3月期の実質GDPの動向は、昨年4〜6月期から3四半期続いた緩やかなマイナス成長の傾向(図表3参照)の線上の動きと見られる。ただ、1〜3月期は個人消費と設備投資が落込まない可能性が高いので、小幅のプラス成長になる可能性もある。
   先を展望すると、確りした足取りでプラス成長が再開するための条件(IT調整完了、海外経済の底入れなど)は、まだ見えていない。