長期戦略なき安倍長期政権――アベノミクス成果なし、消費増税後景気後退リスク(2019.8.20)
―『世界日報』2019年8月20日号“Viewpoint”(小見出し加筆)
【安倍長期政権に長期戦略に基づく成果なし】
参議院選挙の結果、自民・公明の与党が多数を維持し、安倍晋三内閣は本年8月24日に佐藤栄作内閣を抜き、11月20日に桂太郎内閣を抜いて、歴代最長政権になることがほぼ確定した。
短期政権よりも長期政権の方が、長期戦略に基づく経済、政治、外交政策を実行し得るという点で、望ましいことは言うまでもない。しかし既に7年に近い安倍長期政権は、しっかりした長期戦略に基づく政策を実行し、成果を上げてきたのであろうか。私は疑問に思う。今回の選挙結果に基づく安倍長期政権の誕生を、私は素直には喜べない。
【大胆な金融緩和にも長期的限界】
例えば経済政策について、安倍政権は発足直後に①大胆な金融緩和②財政政策の機動的出動③成長戦略―の3本の矢から成る「アベノミクス」を打ち出した。7年近くたった今日、この3本の矢は、長期戦略として日本経済を変えたであろうか。
①大胆な金融緩和は、短期循環的金融緩和の低金利政策としては機能し、企業収益と雇用を改善したが、長期の目標として掲げた2%の物価目標はいまだに実現できないでいる。国債を中心に民間債も含む大量な買オペで供給したマネタリーベースは、その8割近くが「不活動残高」として日銀預金に滞留し、残りが日銀券として流通したにすぎないので、マネーストック(M3)の増加率は毎年2~3%にとどまり、消費者物価上昇率は、中期目標の2%を下回る1%弱にとどまっている。
「大胆な金融緩和」は、中期的な政策目標を達成できなかったばかりではない。異常な低金利政策は銀行、保険などの収益を圧迫して経営リスクを高め、日銀の大量の買オペは市場の自律的需給調整機能を害してシステムリスクを高めている。これ以上の量的緩和は危険でさえある。
【金融政策を補う財政政策は消費税率引上げで逆噴射】
そのような場合、金融緩和政策に代わり、②の財政政策で景気を持続させるのがアベノミクスの本来の在り方ではなかったのか。ところが実際の財政政策は、本年10月から消費税率を引き上げる逆噴射を計画している。このデフレ効果を帳消しするために、本年度予算で2兆円の対策を用意しているが、それでも対策の対象外となっている支出活動に買い急ぎとその反動減が生じることは避けられないであろう。その上、2%増税のデフレ効果は来年度以降も続くが、そこには何の対策もない。2014年4月の消費増税のあと14年度はマイナス成長となったが、18年度下期以降も米中貿易戦争に伴う世界景気の減速、オリンピック需要の消滅なども重なり、景気後退のリスクは高い。
【財政政策には機動的に出動する余力あり】
消費税率引き上げは、財政再建のために待ったなしだという意見がまかり通っているが、一般会計予算の国債依存度は12年度の49%から19年度の33%に下がり、基礎的財政収支赤字の対国内総生産(GDP)比率は12年度の5・5%から18年度の2・2%に下がっている。これは成長率が金利水準を上回っているからであり、この状態が続いている間は危険を冒して消費増税をしなければならない理由はないのだ。
【掛け声倒れの長期成長戦略】
こんな時、③の成長戦略が機能していれば、一時的な景気後退があっても心配はないが、成長戦略は掛け声ばかりで何の成果も出ていない。それどころか、安倍政権の6年強の間に、日本の全要素生産性(TFP・日銀推計)の年増加率は0・8%前後から0・2%弱に落ちてしまった。そのため資本ストックの増加にもかかわらず、潜在成長率は0・9%強から0・7%強へ落ちている。今後、労働時間の短縮と就業者数の増加率低下が続けば、潜在成長率は一段と低下する可能性が高い。
【長期政権故の首脳外交にも成果なし】
このように、経済面でアベノミクスは長期戦略としての成果を何も上げていないが、同じことは外交面についても言える。安倍内閣は長期政権の故に首脳外交を展開することができたが、対米、対中、対露、対イランなどでこれといった長期的成果は上がっていない。
安倍政権にしっかりした経済、外交、政治の長期戦略が欠けていれば、長期政権の誕生を喜ぶわけにはいかないのだ。