自公は消費税増税で民主と協議を―豹変した野田総理に応えよ― (H24.1.11)
―『世界日報』2012年1月11日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【野田首相は宰相として初めて存在感を示した】
 協調を旨とし、慎重な政権運営を心掛けてきた野田総理が、日本の危機を招いている古くからのツケにケリをつけるため、「君子豹変」して課題に取り組む決断を下したように見える。昨年12月29日夜の民主党税制調査会合同総会に、総理自ら出席して行った発言要旨を新聞で読み、そのように感じた。山内昌之東大教授も、「首相の言葉に強い意志を感じた」(読売新聞12月30日付)とし、首相は宰相として初めて存在感を示したと述べているが、同感である。この日、反対者と首相の真剣な討論もあって、合同総会は深夜に至って原案を了承し、翌30日、政府税制調査会で「社会保障と税の一体改革素案」がまとまった。

【決断すべき三つの主要課題】
 かねてこの欄で指摘しているように、融和より決断を重視し、首相が指導力を発揮しなければ解決できない経済的課題は、少なくとも三つある。TPP(環太平洋連携協定)加盟交渉参加問題、増税問題(復興債償還のための増税および社会保障と税の一体改革のための増税)、および停止原発の再稼働問題、である。これらは、いずれも国論を二分するような賛否両論があり、そこに複雑な利害関係が絡む。

【TPP問題に決着を付けた時から首相の姿勢は変わり始めた】
 TPP問題では、これまで保護されてきた農業、医療などの業界を背景に持つ与野党の国会議員の強力な反対があった。しかし、国内の産業や制度をそのままの形で維持するために、世界のグローバル化にこれ以上乗り遅れていては、日本経済全体と国民生活が支払うツケが高過ぎるという良識が、野田総理の決意を支え、加盟交渉参加に漕ぎ着けることが出来た。これからは交渉の具体的な中身が明らかになるたびに、まだまだ反対論がぶり返されるであろうが、このままでは競争力のない高価な農業、不便な医療などが国民にツケとして回ることを考えて、TPP加盟の先に見えているアジアにおけるFTA(自由貿易協定)網、EPA(経済連携協定)網の確立を目指し、前進すべきであろう。そこには、多くの日本の分野のグローバルな発展と並んで、新しい日本の農業、医療の発展の姿も見える筈である。

【「豹変」した首相は法案提出前の与野党協議を提案】
 このTPP問題で、野田首相がねばり強い押しで交渉参加に漕ぎ着けた時、首相の政治的取り組み姿勢が変わってきたのではないかと感じたが、今回の増税問題で「豹変」が決定的となった感がある。
 「社会保障と税の一体改革素案」は、3月に法案として通常国会に提出する前に、野党、とくに自民党と公明党に提示し、与野党協議で話し合いがつけば、法案提出前の修正もあり得るとしている。
 これに対して両野党は、協議を拒否している。昨年同様、3月末に特例公債法案など予算関連法案を参議院で否決する構えを取り、一体改革法案もその中で審議せず、政府を窮地に追い詰めて解散、総選挙に持ち込もうという戦略だと伝えられる。そうなれば、選挙の大きな争点が高齢化に伴う社会保障費膨張を賄うための消費税率引き上げの是非となり、自民、公明両党は増税反対の立場で支持を集め、勝利できると考えているようだ。

【自公の協議拒否は国民に支持されない】
 しかし、自公政権(麻生首相)の下で、2009年の通常国会で成立した改正所得税法の付則104条には、消費増税に向け「11年度までに必要な法制上の措置を講じる」と書いてある。それなのに、11年度末の今年1〜3月に、消費税引き上げ法案について民主党と協議せず、法案提出後の成立を阻むとはどういう事か。また谷垣自民党総裁は、2010年参院選で、消費税率10%への引き上げを公約し、この方針を押し進めると言ったではないか。この方針にようやく民主党が乗ってきた時に、協議を拒否するとは何事か。
 1月5日の大新聞の社説では、「野党はテーブルにつけ」(朝日新聞)、「“消費税”を政争の具にするな」(読売新聞)という調子で、珍しく自民、公明両党を批判している。国民の多くも、同じ思いであろう。

【更なる行政の無駄排除と景気に配慮した増税の停止条項に国民は注目】
 国民が与野党協議に期待している点は、少なくとも二つあると思う。
 第一は、消費増税の前に、もっと徹底した行財政改革で無駄を排除することについて、与野党が合意し、実行に移して欲しいという事だ。国会議員の定数削減、公務員の人件費削減は自ら身を切る象徴的な改革であるが、国の地方出先機関の統廃合、特別会計とその先にぶら下がる独立行政法人の整理などは、行政の無駄の排除によって、もっと大きく予算を浮かせることが出来る改革である。
 第二は、「経済状況等を総合的に判断」して景気が悪化した場合には消費増税を停止するという、いわゆる「停止条項」について、与野党でもっと詰めた議論をし、法案に書き込めないまでも、せめて成長率の目途を文章に残しておくべきだ。
 国民はこの2点について、どの党が最も熱心か注意深く監視するであろう。自公両党にとっても、ここで主張を明白にする方が、前言を翻して増税に反対するよりも、来るべき総選挙で支持率が上がるのではないか。