成長戦略産業の育成に本腰を (H22.9.9)
―『世界日報』2010年9月9日号“Viewpoint”(小見出し加筆)

【追加策を打ち出した政府と日銀】
 この1カ月程の間に、円高と株安が大きく進んだ。その影響で、本年度下期の景気足踏みや二番底の心配が高まり、日本銀行は8月30日の臨時政策委員会・金融政策決定会合で金融緩和策を追加し、政府は追加経済対策の基本方針を決定した(正式決定は9月10日)。
 折しも民主党内では、菅首相と小沢前幹事長が代表選挙で争っており、小沢氏は政府の追加経済対策とはやや異なった選挙公約を掲げている。
 以下では、これらの政策が日本経済の持続的成長に対して十分な効果を持っているかどうか、考えてみたい。

【日銀の追加緩和策の評価】
 まず日本銀行の追加金融緩和策は、現行の3カ月固定金利方式の買いオペ(20兆円)に加え、6カ月固定金利方式の買いオペ(10兆円)を追加するというものである。この効果を、量的緩和と金利に分けて考えてみよう。
 現在、日本銀行の当座預金には、必要準備額7兆円を10兆円前後上回る自由準備が滞留しており、どの銀行もコール市場でこのアイドル・マネーを0・1%で調達して使える状態にある。従って、今回の買いオペ追加で自由準備が更に10兆円積み上がっても、それで銀行の与信行動が活発化するとは思われず、量的緩和の効果は殆んどないであろう。
 金利については、期間6カ月を中心に銀行間貸出金利(TIBOR)が、買いオペの入札金利に鞘寄せされる形で、これ迄の0・4%弱から多少下がることはあろう。しかしこの程度の金利低下によって、円高に歯止めが懸るとは思えない。
 そもそも現在の円高はドル安とユーロ安の反映で、米欧は輸出主導型回復を図るため自国の通貨安を喜んでおり、円高阻止の協調介入の意思はない。日本の単独介入では円高は止められない。日本銀行の政策は、「何もやらないよりはまし」という程度の気休めである。

【円高より株安に対策を打て】
 本当に市場に響くようなことをやるとすれば、円高対策ではなく株安対策であろう。昭和39〜40年の山一証券不況の時にように、民間に共同証券や保有組合のような株式買上基金を作り、日銀が日本証券金融経由で特融を実施するのである。あの時は株式投信を救った。今回は株式を組み込んでいる年金基金を救い、また逆資産効果で下期の景気が崩れることを防ぐため、業績が良いにも拘らず米欧株価と連れ安になり、PER(株価収益率)が異常に低下した銘柄を買い上げるのである。
 これは非常時の異例中の異例ともいうべき手段であるが、いまの株安が、本当に日本経済の先行きに致命的な悪影響を及ぼしそうだと考えるなら、検討に値する。少なくとも、円高対策よりも実際的である。

【新成長戦略産業の育成に本気で取り組め】
 次に政府の追加経済対策をみると、一番高く評価できるのは、新成長戦略実現推進会議を設置し、成長戦略産業の発展支援に本腰を入れることである。既に日本銀行は、成長基盤強化のため、民間金融機関の戦略産業に対する融資を0・1%の低利でリファイナンスするセレクティブ・コントロール(上限3兆円)を開始した。政府は電力・新エネルギー、情報通信、環境、物流、医療、介護、育児、教育などの規制緩和を進め、これらの成長戦略産業への民間企業参入を促進すべきである。
 住宅版エコポイント制度の創設や家電エコポイント制度の延長は、小沢氏の公約にもあるが、下期の景気を支える上で有効である。

【心細い追加経済対策の規模】
 また雇用支援対策の充実、強化も適切である。労働の需給改善と賃金引き上げこそが、デフレ解消、持続的成長の決め手である。
 しかし、そのためには十分な雇用機会の拡大が欠かせないが、政府の追加経済対策の規模が、本年度予算の予備費から9千2百億円を充てるに止まっている点は心細い。この点小沢氏は、予備費2兆円を全額使って緊急経済対策を講じるとしている。
 政府の財政政策は、少し腰が引けているのではないか。来年度の予算編成についても、本年度予算の支出規模92兆円、国債発行44兆円を上限にするとしているが、本年度には、前年度第2次補正予算7兆円からのズレ込みが少なくとも4兆円あり、実勢は96兆円と48兆円である。92兆円と44兆円に抑えると、来年度は本年度より緊縮財政となり景気抑制的だ。

【民主党は小泉流の財政緊縮・金融超緩和のポリシー・ミックスに戻ってはならない】
 民主党は、小泉政権の財政緊縮、金融超緩和のポリシー・ミックスに戻って、円安で輸出を伸ばし、内需(国民生活)を犠牲にする気かと疑いたくなる。この点小沢氏は、目先は財政を拡大し、他方で急激な円高は断固市場介入で阻止するが、長期的な円高は良いことと言っている。この姿勢は評価したい。
 最後に、政府の追加経済対策の中で、工場の海外シフトを阻止して雇用を守るとしているのは不適切だ。これからは新興国・途上国で製造業の比重が上がり、先進国では非製造業に属する成長戦略産業の比重が上がる。日本は円高を利して新興国企業の買収・資本提携を進め、この産業構造の転換を促進し、国内雇用は成長戦略産業で確保すべきである。<<(すずき・よしお)>>