「踊り場」を抜け出した日本経済 ─ デフレとゼロ金利はいつ終わるか
(H17.10.17)
10月17日(月)午後4時から、出版クラブ会館において、(株)日教販の主催により、教科書を発行している出版会社を対象とした経済講演会が開かれ、講師として招かれた。
以下は日本経済の現状と展望、およびデフレとゼロ金利政策の今後について講演した際に用いた詳しいレジュメとグラフ、および懇親会での主な質疑応答の要旨である。
[レジュメ]
1.今回景気回復の三つの局面
(1)02/U〜04/Tのプラス成長(年率+2.8%成長)
イ.輸出と輸出関連設備投資がリード(図表1)
ロ.国内需要関連企業(とくに中小企業と非製造業)と地方経済は停滞したまま
ハ.企業のモノ(設備)、ヒト(雇用)、カネ(借金)の調整は続く ─ 資本分配率上昇、労働分配率
低下(図表2)
ニ.輸出企業の好収益が雇用・賃金の回復を通じて内需を刺激する好循環が作動せず
(2)04/U〜Wのマイナス成長(踊り場)(年率−0.5%成長)
イ.輸出の伸び率鈍化で04/V〜05/Uの純輸出が頭打ち(図表1)
ロ.米国、中国、ユーロ圏の成長鈍化
ハ.世界的なITミニ不況
(3)05/T以降再びプラス成長(年率+4.4%成長)
イ.個人消費と設備投資がリード
ロ.雇用者所得の回復・労働分配率の上昇(図表2、3) ─ ヒト(雇用)の調整完了
ハ.内需関連企業も設備投資に前向き ─ モノ(設備)とカネ(借金)の調整完了(図表4)
日銀短観1万社の設備投資(ソフトウェアを含み、土地を除く)
2.日本経済は再生したか
(1)民間企業のビジネス・モデル転換
イ.バランスシート調整・固定費調整で損益分岐点低下、バブル期を上回る収益率(図表5)
ロ.「閉ざされた仲良しクラブ」から「開かれたグローバル・クラブへ」(系列取引重視、
メインバンク制、終身雇用・年功序列賃金からの脱皮)
ハ.IT技術革新を活かしたヒト・モノ・カネの節約(原油価格高騰に対する抵抗力)
(2)民間企業活動に対する公約部門の過剰介入と民間市場を圧迫する「官製市場」を廃止
できるか
郵政事業、高速道路、水道、公的病院、公立保育所、公共職業紹介所、
構造改革特区、教育・医療・農業への株式会社参入
(3)民間経済を圧迫しない財政健全化が出来るか
イ.公務員の数と給与はどこ迄切り込めるか
ロ.歳出削減の規模が将来の増税・社会保険負担増加の規模を決める
3.デフレ脱却とゼロ金利政策の展望
(1)量的緩和政策転換の三段階
日銀当座預金(30〜35兆円)の圧縮→ゼロ金利政策持続(日銀当座預金6兆円以上)
→金利政策の復活(日銀当座預金6兆円以下)
(2)日本銀行の約束(次のイロハが満たされるまで量的緩和政策を続ける)
イ.全国消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比がゼロ%以上(本年9月現在 −0.1%)
ロ.今後もゼロ%以上との予測
ハ.諸般の経済情勢判断
(3)年末から来年上期に上記のイロハが満たされる可能性
イ.本年10月〜来年1月に前年比ゼロ%以上となる可能性が高い(図表6)
ロ.IT部品の在庫調整完了・輸出回復で、内需に加え外需も景気を引っ張り始めると、
持続的成長の基盤が固まり、需給ギャップが縮小し、デフレ脱却が確実に
[質疑応答]
【問】
楽天の三木谷社長によるTBS株買収をどう思うか。
【答】
どちらかと言えば、好意的に見ている。三木谷社長はマネーゲームで儲けるために株を買収しているのではなく、通信と放送の融合という将来の姿を先取りし、国際競争に負けない経営を作ることをTBSに提案しているからだ。
そもそも会社は経営者や従業員のものではなく、株主のものである。しかも株式を上場している以上、会社は上場株の所有者(株主)を選べない。とくに、新しい大株主である三木谷氏(楽天)の提案は、TBSの他の株主にとっても、会社が発展するという意味で良いことかも知れない。
いろいろ検討の余地は残っているが、私は三木谷氏の動きは時代の方向を示すものとして、好意的に見ている。
【問】
財政支出削減が必要というお話であったが、教科書業界はそれで教科書の買上げ価格を引下げられ、困っている。
【答】
財政支出の削減は、民間経済への過剰介入や「官製市場」の維持といった官僚の余計な「仕事」を減らすことによって実現すべきことだ。一律に歳出を削減すると言って、教科書買上げの単価を合理的な理由もなしに下げていくのは問題だと思う。