低金利下の輸入インフレ (『金融財政ビジネス』2026.8.20日号、小見出し加筆)

 日本銀行は6月の政策決定会合で、政策金利を半年振りに引き上げて、1%としたが、7月の政策決定会合では、更に引き上げることなく、この水準を維持した。

【自然利子率の推計領域を大きく下回る政策金利】
 1%の名目金利水準は、物価上昇率をなおかなり下回っているので、政策金利の実質水準は引き続きマイナスである。物価安定下の持続的成長と整合的な自然利子率(実質)の水準は、ある程度の幅を持ってしか推計できないが、引上げ後の政策金利の水準は、自然利子率の推計領域よりも、まだかなり下にあることは疑いない(5月21日付の本欄参照)。7月の政策決定会合では利上げをしなかったが、今後も適切なテンポで利上げをしていかなければ、金融政策はbehind the curveとなる恐れがある。長期市場金利の上昇は、それを示唆しているのではないか。

【輸入インフレの国産インフレ転化をもっと警戒せよ】
 本年2月から始まった中東軍事紛争に伴う国際原油市況の高騰、これに伴う国内への輸入インフレの波が、日本特有の適合的期待を通じて国内の予想インフレ率を引き上げ、国産(home made)インフレに転化する危険性に対して、金利政策はもっと早めに反応しても良いのではないか。軍事紛争が終われば国際原油市況は反落するが、元の水準に戻るとは限らないし、国内の予想インフレ率の上昇に伴って引上げられた価格・コストには下方硬直性がある。従って、いずれ国際原油市況が反落するからと言って、輸入インフレに対して早めに利上げで対処しないのは危険である。

【国内のインフレ率はジリジリ上昇している】
 企業物価指数のうちの円建輸入物価指数は、3月から急上昇し、6月には前年比+29.7%に達した。これに伴い国内企業物価指数も3月から大きく上昇し始め、6月には同+7.1%になった。これがコスト面と予想物価上昇率の両面から消費者物価に波及している。日銀が消費者物価の基調を見るために推計している生鮮食品と特殊要因(政策的な補助金など)を除く消費者物価の前年比は、2月に+2.2%と物価安定目標(2%)に近づいていたが、3月からは再び拡大に転じ、6月には+2.7%と、物価安定目標から離れている。

【日銀政策委員の物価見通しは上昇】
 日銀政策委員の26年度の消費者物価(生鮮食品を除く)の見通し(中位数)は、1月時点では+1.9%と物価安定目標並みであったが、4月には+2.8%に上方修正された。その間、大幅に下落している円相場が更に下がり、国内の物価上昇率を押し上げている。

【民間のインフレ見通しも上昇】
 6月調査「日銀短観」における企業の「販売価格判断DI」は、企業規模、製造・非製造業を問わず、総てのセクターで「販売価格」の上昇見通しが3か月前の調査より拡大し、つれて1年後の「物価見通し」も3か月前の3.1%から3.7%に上昇した。これを支えているのは、言うまでもなく、企業金融の超緩和である。金融機関の「貸出態度DI」が著しく「緩い」下で、「資金繰判断DI」は大きく「楽である」超を続けている。これをマクロ統計から見ると、銀行・信金の貸出残高合計は、1〜3月期の前年比+4.6%から4〜6月期は同+5.6%に上昇し、つれてマネーストックM2残高も同+1.8%から同+2.3%に上昇した。

【政策金利の引上げをためらうな】
 このように、実質政策金利が実質自然利子率を大きく下回っている現状では、超金融緩和が物価上昇率を押し上げ続けているのである。他方、ホルムズ海峡封鎖に伴う石油等の輸入減少から、2、3月に低下した鉱工業生産、出荷は、4月以降回復しており、企業の設備投資、家計の消費支出を中心とする国内民需主導型成長は底固く続いている。先行きの景気を気遣って政策金利の引き上げをためらう理由はない。