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的外れの経済政策 (『金融財政ビジネス』2026.2.16日号、小見出し加筆)
【物価高対策で物価上昇】
「物価高対策」とは、「物価高を抑制する政策」のことかと思っていたが、最近の日本では、物価高を前提として、「物価高で困る国民の痛みを和らげる政策」を意味するらしい。昨年12月に成立した本年度補正予算がその良い例で、そこに含まれる年収の壁引上げによる大型減税や歳出拡大は、物価高を所与とした上で、物価高で困る国民の痛みを和らげる策として企画された。しかし、マクロ経済に対する効果を考えると、この大型補正予算は総需要拡大・円安促進・インフレ持続の効果を持つ。突然の解散・総選挙で遅れている来年度予算案も同じである。
【「高市積極財政」でインフレ持続予想が強まり、株高・長期金利上昇・円安】
中長期ビジョンを欠く「高市積極財政」によりインフレ持続の予想が強まり、昨年12月の日本銀行による0・25%の小幅利上げにも拘らず、年明け後は株式市場の活況持続、為替市場の円売持続、中長期債市場の債券売圧力=中長期金利上昇が続いている。
【トランプの高関税と投資呼び込み】
トランプ政権下の米国でも、政策の狙いとは逆のことが起っている。大統領選の行方を決めるミシガン州など3州は、技術革新を伴う国際競争の中で比較優位を失って衰退した産業が多く、低学歴の白人失業者が大勢いる「ラストベルト地帯」として有名であるが、トランプはこれらの州で多数票を獲得するために、海外からの輸入に高率関税を課したり、日本、韓国、EUなどから多額の投資を呼び込んで、雇用を拡大しようとしている。
【ラストベルト発生の要因は長期資本流入増加によるドル高】
しかし、これらの州の製造業が国際競争に敗れて衰退した根本的な原因は、米国自身が先導した国際的な資本移動の自由化によって、21世紀の先端産業(IT・AI、航空・宇宙、金融、大学教育など)が育つ米国へ多額の資本が流入し、その結果ドル高が進んでラストベルト地帯の古い輸出産業が比較優位を失ったからである。これらの産業を高関税で守ったり、そこに多額の投資を呼び込んだりしても、米国への大量の資本流入=ドル高が続く限り、衰退産業の復活は無理であろう。中間選挙の対策で経済の論理に逆らっても、大きな無駄を生み出すだけであろう。
【米国の経済学者は何故批判しないのか】
米国には優れた経済学者が大勢いるにも拘わらず、彼等がこの馬鹿げたトランプの経済政策を公に批判しないのは、大学嫌いのトランプに補助金をカットされることを恐れているからであろうか。それとも、トランプ大統領は「朝令暮改」(TACO=Trump Always Chickens Out)を常としているので、放っておいても、間違った結果が出れば直ちに政策を改めるだろうと考え、高みの見物をしているのだとすれば、嘆かわしい限りである。
【日本は早いテンポで利上げを】
一方日本経済は、緩やかな回復軌道を辿り、マクロ需給バランスは徐々に改善している。このような状況下では、物価対策の基本である金融政策が、マイナスに沈んでいる現在の実質金利をもっと早いテンポで引上げるべきであろう。今は利上げ=円高転換=財界の苦情、を心配する時ではない。前述のように、米国への長期資本流入によるドル高=円安圧力が懸っている現状では、なおのこと遅滞は許されない。
【日銀はインフレ持続の予想にもっと警戒を】
日本銀行の予想(政策委員たちの予想の中央値)では、基調的インフレ率に近い消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比上昇率は26年度に+2・2%と、政府・日銀の「物価安定目標」をやや上回る程度に下がると見ている。しかし直近の昨年12月の消費者物価(同)は前年比+2・9%であり、日銀の昨年12月の「短観」では、企業の1年後の物価見通しは+2・4%である。日本銀行は、長期金利上昇や円安の背後にあるインフレ持続の予想に対し、もっと警戒すべきであろう。26年上期の金融政策がビハインド・ザ・カーブにならないことを祈りたい。