財政赤字拡大の始末は? (『金融財政ビジネス』2013.1.28日号)
3代に及ぶ民主党政権は、マクロ経済政策について明確な合意がなく、指令塔である国家戦略室もほとんど機能していなかった。そのため民主党政権のマクロ経済運営は市場に信頼されず、また企業の先行き不透明感は改まらなかった。
これに対して、今回安倍晋三首相が打ち出した「アベノミクス」の内容はかなり明確であるため、市場の期待が反応して円安・株高方向に動いた。指令塔も、マクロ経済を担当する経済財政諮問会議を復活させ、またミクロ経済を担当する日本経済再生本部を新設し、その下に産業競争力会議を置き、全体を甘利経済再生担当相が総括するなど、少なくとも形は整った。
あとは、この陣立が本当に機能して適切な政策を実施できるかどうかである。安倍首相自身の言葉を借りると、「アベノミクス」は@金融緩和、A財政出動、B成長戦略、の3本から成るという。
@金融緩和では、安倍政権と日本銀行が2%のインフレ率を中期的な達成目標として明記した共同文書を取り交わし、日本銀行に一層大胆な金融緩和を迫ることとなった。当初安倍首相は、同主旨の政策協定(アコード)を日本銀行と結んでその達成を義務付け、それを確実にするために日本銀行法の改正も辞さないと述べていたが、中央銀行の独立性を侵すという批判に配慮し、少なくとも参議院選挙が終わるまでは共同文書で我慢するようである。
デフレ克服の強い意志を示すため、2%の中期目標を掲げることは悪くないし、それを達成するためにより大胆な金融緩和を進める余地が無いことはない。流動性の罠に陥ってゼロ金利の状態とは言え、長期金利はゼロではないのだから、残存期間3年以上の長期国債の買オペを増やせば多少とも長期金利は下がるだろう。中央銀行資産の対GDP比率をもっと引き上げれば、円高修正の効果も少しはあるだろう。
しかしこれらの政策の問題点は、日本銀行の資産内容悪化と、金融緩和が行き過ぎて2%以上のインフレや資産バブルを発生させるリスクが高まることだ。浜田宏一エール大学名誉教授は、日本銀行のインフレ抑制力は強いから大丈夫だと言うが、日本銀行は政府から円高阻止の金融緩和を強いられ、72〜73年の大インフレと87〜89年の資産バブルという2度の大失敗をしている。
金融緩和によってインフレ率が2%に達したとしても、その時賃金や年金がそのままならば、国民生活は悪化する。インフレ率の上昇が実質成長率の上昇による需給好転の結果であれば、賃金や年金も増える。そうするためにはA財政出動とB成長戦略が重要になる。
安倍政権は、公共投資を柱に大型の補正予算と来年度予算を準備し、成長率の押し上げを図ろうとしている。その主要な財源は国債増発であるが、それに伴う財政赤字拡大の始末はどうつける積りであろうか。インフレ率と実質成長率の上昇に伴い、税の自然増収が増えるから大丈夫というのであろうか。それとも、日本は一五〇〇兆円の民間貯蓄残高を中心に、国全体も世界最大の資産超過国であるから、財政赤字が更に拡大しても大丈夫と言うのであろうか。財政再建放棄と見られて、長期金利が急騰すれば大変である。
そのような安易な考えではないとすれば、A財政出動は短期決戦型で、その間にB成長戦略が始動し、民需主導の持続的高成長が始まって、財政は緊縮に転じ、財政再建に向かうということであろうか。そのためには、これ迄掛け声倒れに終わっていた規制緩和、投資支援、海外との経済連携協定拡大などによる成長戦略産業の立ち上げに成功しなければならないが、大丈夫か。(1/21記)