米欧の「失われたx年」 (『金融財政ビジネス』2011.1.13号)
昨年の日本の経済成長率は、10〜12月期がゼロ成長であっても、前年比+4・5%となり、同期が若干のマイナス成長であっても、4%台は固い。米国の2%台、ユーロ圏の1%台を大きく上回る。
日本は一昨年の落ち込み幅が大きかったので、昨年のリバウンドも大きかったという説明が、米国との対比では言えるかも知れないが、ユーロ圏は落ち込みが大きいのにリバウンドは小さい。やはり、昨年の日本には大きくリバウンドする理由があったとみるべきではないか。
90年代の日本の低成長、いわゆる「失われた10年」をみて、米国ではバブル崩壊後に果敢な金融緩和を行わなかったからだという批判が多かった。デフレは貨幣的現象なのに、貸出やマネーストックを十分に増やしていないと言うのだ。
ところが、一昨年と昨年の米欧ではまったく同じことが起きた。米国では銀行貸出が収縮し、マネーストックの前年比はかつての7%台から最近では3%以下に落ちている。ユーロ圏でも銀行貸出は増えず、マネーストックはかつての10%前後から一時は前年比マイナスとなり、最近でも1%以下である。
その中で、消費者物価のインフレ率もどんどん低下し、米国のコアインフレ率は昨年4月から前年比1%を割り込み、10月は0・6%まで下がった。ユーロ圏では一昨年に一時マイナスとなり、最近でも2%以下である。米欧の「日本化」だ。
リーマンショック以降、かつての日本と同じように、米欧は事実上のゼロ金利政策と極端な量的緩和政策を実施し、財政面からも大規模な景気刺激を行った。それにも拘らず、日本と同じ低成長に陥り、デフレ化の懸念が出ているのだ。
かつての日本も、現在の米欧も、中央銀行は民間の金融資産を大量に買い上げ、ベースマネーを巨額に供給している。このため、中央銀行の保有資産の対GDP比率は、5〜10%から15〜25%に上昇し、ベースマネーは、かつての日本と現在の米国では2・5倍に、ユーロ圏は1・5倍に増えている。それにも拘らず、銀行貸出もマネーストックも増えないのである。これは、資産バブルの破裂に伴い、かつての日本では企業と銀行に、現在の米欧では家計と金融機関に、巨額の不良資産が発生したからである。この不良資産を圧縮して正常なバランスシートに戻すため、企業や家計は支出を抑え、金融機関は信用供給を抑えている。
このようなバランスシート調整が続いている間は、かつての日本も、現在の米欧も成長率は低下し、需給ギャップの拡大でインフレ率は下がる(デフレ化)。
金融政策の有効性低下に対処して財政政策で景気刺激を追加しようとしても、これ迄の財政拡張で赤字が拡大し、いわゆる「ギリシャ問題」が起きているため、ユーロ圏では財政政策は使えない。米国は財政赤字がGDPの10%を超えているのに8千5百80億ドルの財政刺激を追加する構えだが、早くも国債市場で長期金利が上昇しているので効果は限定されよう。6千億ドルの量的緩和の追加、QE2も、通貨引き下げ競争や新興国・資源国のバブルを助長するとG20で批判された。
米欧経済はバランスシート調整完了まで低成長に甘んじざるを得ないのではないか。米欧の「失われたx年」だ。この点、バランスシート調整の終わっている日本は昨年高成長を遂げた。国内では法人税率5%下げ、日銀の低利リファイナンス拡大、規制緩和によって新成長戦略産業を育て、海外ではEPA網を張り巡らしてアジア諸国への輸出と直接投資を伸ばし、潜在(期待)成長率を高めて行けば、デフレも自ずと解消し、米欧に先んじて新しい持続的成長の道が開けてくるのではないか。