景気は最悪期を脱したが (『金融財政ビジネス』2009.7.13号)
日本の景気は最悪期を脱したようだ。4四半期続いた戦後最長・最深のマイナス成長は本年1〜3月期で終わり、4〜6月期はプラス成長に転じた可能性が高い。6月調査「日銀短観」の業況判断DIはほぼ2年振りに好転し、先行きも更に好転する形となった。
この要因は、主として三つある。
第一に、3四半期続いた「純輸出」の減少が増加に転じたと見られる。日本銀行の推計によれば、実質輸出は本年2月を底に5月まで13.6%増加した。これに対して実質輸入も、同じく2月を底に増加しているが、マイナス成長を反映して4.1%しか伸びていない。この結果、実質貿易収支は、05年平均を100とした指数で、1〜3月期の23.7をボトムに増加に転じ、4〜5月の平均は97.1まで回復した。
第二に、在庫投資が成長を支える要因に変わってくる。昨年10月から始まった輸出の急激な落ち込みに伴って、原材料・仕掛品・製品の各段階の在庫は急増した。この過剰在庫を減らすため、鉱工業生産も10月から2月まで、31.9%も抑え込まれた。この甲斐があって、製品在庫は1月から減少しており、在庫全体の増勢も鈍化して1〜3月期の在庫投資はかなり減少した。今後、在庫が正常な水準に近付くにつれ、在庫投資の減少幅は縮小し、やがて増加に転じるであろう。これが成長に対してプラスに寄与する。
第三に、10年間続いた公共投資の減少傾向が、増加傾向に転じた。08年度第一次、第二次補正予算の執行と本年度予算の前倒し執行に伴い、公共工事請負金額は3月と4月にそれぞれ前年比15.3%と20.5%の伸びとなった。超大型の本年度補正予算の執行が始まれば、更に伸びるであろう。
以上の三つの要因で、日本経済は最悪期を脱したが、これで今回の不況が終わり、経済が回復軌道に乗ってくると見るのはまだ早計である。
第一に、輸出が増えたと言っても、昨年1月のピークから本年2月のボトムまでの落ち込みの2割を戻したに過ぎない。これは、国内外の過剰在庫の調整に伴う落ち込みが、調整の進捗につれてリバウンドしただけである。肝心の世界の最終需要の方は、まだ回復の目途が立っていない。IMFの世界経済見通し(実質成長率)では、今年は先進国が−3.8%、世界全体も−1.3%だ。中国(+6.5%)、インド(同4.5%)など新興国・途上国向けに輸出を伸ばすとしてもすぐには無理だ。他方輸入の方は、日本経済が最悪期を脱するにつれて増勢が高まる。「純輸出」の伸びも鈍ってくるであろう。
第二に、在庫投資の減少幅縮小と増加は、在庫水準が正常化するまでの一過性の動きで、持続的に成長を支える要因ではない。第三に、公共投資は増え続けるとしても、過去10年間の抑制でGDPに占める比率は実質ベースで3.5%まで落ちており、成長寄与度は大きくない。
結局、回復の持続性は、家計消費と設備投資の動向に懸かってくる。雇用と賃金の悪化で雇用者報酬は減少しているが、消費者物価が下落しているので実質ベースでは横這いであろう。従って、一時的な給付金よりも、年金・医療・介護・保育・教育などの補助を増やし、国民が将来に期待と安心を取り戻して消費性向が高まるような施策が望まれる。
設備投資は「日銀短観」の本年度計画でも弱いが、だからといって無駄な箱物作りや民業圧迫の公共投資を増やすのは愚策である。民間には出来ないエネルギー・環境関係などの公共投資を拡大し、民間の設備投資を引き出すことが大切だ。
内需振興は、安心・安全のセイフティ・ネット作りと、低炭素社会を目指す公共・民間の補完的投資プロジェクトが決め手だ。