円安バブルの大罪 (『金融財政』2009.21.16号)

  金融危機の実体経済に対する影響が、いよいよ本格化してきた。輸出の前年比が12月には−35%に達し、12月の鉱工業生産指数は前年比−20.6%まで落ち込んだ。雇用問題は深刻化し、非正社員を中心とする解雇の拡大が社会問題化している。
  日本の国内には、米欧のような住宅価格のバブル崩壊と金融危機と景気後退の悪循環はない。不況の原因は、もっぱら騒ぎを起こした米欧と、米欧への依存度の高い国への輸出急落である。表面的に見ると、日本は米欧から大変な迷惑を蒙っている形になる。
  しかし、今の日本の大不況をもっぱら米欧からの被害だと考えるのは、極めて皮相の見方である。何故なら、小泉政権が発足した2001年以来、日本は円安バブルを伴う大量の資金流出で米欧の住宅バブルの発生に加担し、また自らを海外からの攪乱に弱い極めて輸出に偏った経済体質に変えたからである。米欧の住宅バブル崩壊に伴う世界同時不況で、日本の成長の命綱である輸出が急減し、日本自身が大不況に陥っているのは、いわば身から出た錆だ。
  日本銀行が算出した円の実質実効為替相場を見ると、円は2000年の始めから07年の中頃まで、38%も円安となり、国際協調でドル安を進めた85年のプラザ合意前の水準まで下がった。このため、日本の輸出競争力は著しく高まり、02年から07年までの6年間に実質輸出は毎年平均1割伸び、戦後最長の景気上昇が実現した。6年間の経済成長率に対する純輸出の寄与率は、ほぼ四割に達する。
  このような極端に外需依存に偏った経済体質を作り出した大幅な円安は、この間にゼロ金利を含む超低金利政策が実施され、日本から海外への資金流出圧力が強まったためである。内外の金融機関やファンド、日本の個人まで、円安は続くと信じて「円キャリ取引」を続けた。円安持続を信じて行う円キャリ取引自体が、更なる円安を促すという典型的な「バブル」である。
  「円安バブル」を伴いながら海外に流出したこの資金が資金源となって、米国の銀行は「住宅バブル」を生み出したサブプライム・ローンなど住宅ローンの拡大に走り、米欧の投資銀行、ファンドなどは住宅ローンの証券化商品・派生商品への投資に狂弄した。今回の金融危機と不況は、こうして形成された住宅バブルの破裂によって始まった。その意味で日本は、世界大不況の原因に加担した上、自らその被害を受け易い外需依存体質になり、円安バブルの崩壊(円高)も加わって一層苦しんでいる。いわば自業自得である。
  円安バブルを生んだ超低金利政策は、03年までは日本国内の金融危機対策としてやむを得なかった。しかし04年以降は、財政赤字を縮小する緊縮財政とのポリシーミックスとして続けられた。小泉政権発足後、社会保障費の抑制などで国民負担は8.6兆円増加し、公共投資は四割削減され、地方への十分な財源の移譲がないまま地方交付税交付金が絞られたので、消費の停滞と地方経済の疲弊が生じた。財政緊縮のデフレ効果が強かったため、超低金利政策がなければ、内需の減少で景気上昇は失速したかも知れない。その意味で、小泉政権以降の「財政緊縮、金融超緩和」のポリシーミックスに根本的な問題があったと言える。
  これからの財政は「環境のニューディール」と「安全・安心のニューディール」で内需喚起を図り、「財政中立」に戻るべきだ。そうすれば金融も「正常金利」に戻る日が見えてこよう。