2025年11月版
国内民需の回復持続と対米以外の輸出伸長で景気の緩やかな回復が続く

【トランプ関税の悪影響は部分的、国内景気の先行き感に明るさ】
 日本の景気は、国内民間需要を中心に、緩やかな回復を続けている。9月の「景気動向指数」は、「一致指数」が3か月振りに上昇に転じ、「先行指数」は5か月連続して上昇している。10月調査の「景気ウォッチャー調査」では、5月から上昇を続けている「現状判断DI」と「先行き判断DI」が、10月も共に上昇した。
 これは、個人消費、設備投資など国内民間需要が物価高騰下にも拘らず根強く回復を続け、輸出もトランプ関税に伴ない対米輸出は減少しているものの、アジア向け、EU向けなどを中心に拡大を持続しているため、鉱工業生産、出荷、国内卸売、小売など国内経済活動の回復基調が崩れないためと見られる。
 なお、7〜9月期実質GDPは、トランプ関税の風圧を受けている対米輸出を中心に、「純輸出」が悪化し、成長の足が引っ張られる可能性が高い。

【生産は3か月振りに増加、出荷は国内向けを中心に2か月連続上昇】

 9月の鉱工業生産は、前月比+2.2%と3か月振りに増加し、出荷も同+0.7%と2か月連続して増加した。出荷の内訳を見ると、輸出は前月増加(同+0.%)のあと再び同−0.5%の減少となったが、国内向け出荷は逆に前月減少(同−0.4%)のあと同+1.6%の増加となった。
 四半期毎の推移によって傾向を見ると、輸出は4〜6月期(前期比−3.6%)、7〜9月期(同−2.2%)とトランプ関税の影響で2四半期連続の減少となったのに対し、国内向け出荷は4〜6月期増加(同+2.1%)のあと、7〜9月期はやや減少(同−1.4%)となり、総じて見れば上期は弱含み横這い傾向となっている。この結果、鉱工業出荷全体としては、4〜6月期増加(同+1.2%)のあと、7〜9月期は減少(同−1.4%)となった。
 製造工業生産予測調査によると、10月は前月比+1.9%上昇、11月は−0.9%減少となっている。生産、出荷が10〜12月期に回復に転じるか、底這いとなるかは、輸出の動向に懸っている。

【消費者の購入態度に持ち直しの気配】
 国内民間需要の動向を見ると、10月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」(季調済み)は、3か月連続で上昇し、消費態度の持ち直しが窺われる。9月の「家計調査」の実質消費支出(季調済み)の前月比は、前2か月上昇のあと減少したが、7〜9月期全体としては、前期比−0.1%とほぼ横這いであった。9月の「消費活動指数」(日銀推計)は、前月比やや増加した(図表2)。
 9月の全国消費者物価(生鮮食品・エネルギーを除く)は、季調済み前月比が横這い、前年同月比は+3.0%(前月は+3.3%)とやや勝勢は弱まっているが、それでも実質賃金の前年比は−1.4%の下落である(図表2)。これが消費の動きを頭重くしている。
 9月の雇用は、就業者、雇用者共に増加を続けており、完全失業率は横這いであった。

【機械受注は4四半期振りに減少か、民間住宅投資は緩やかな増勢続く】
 民間設備投資の動向を見ると、機械投資を反映する資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、9月に前月比+0.9%と前月(同+2.2%)に続き増加したが、前々月の落ち込みが大きかったため、7〜9月期は前期比−3.9%の減少であった。
 先行指標の8月の機械受注(民需、除船舶・電力)は、前月比−0.9%と7月に続き2か月連続して減少した。昨年10〜12月期から本年4〜6月期まで、3四半期連続して増加したきた機械受注(同)は、7〜9月期には4四半期振りの減少となりそうである(図表2)。企業の設備投資年度計画は2桁の伸び(例えば「日銀短観」の全規模全産業の年度計画は前年比+10.3%)となっていることから考えて、企業の設備投資がこの先減少に転じるとは考えにくいが、増勢鈍化の可能性は注意深く見ていく必要があろう。
 なお、民間住宅投資は昨年4〜6月期から本年4〜6月期まで、昨年10〜12月期の足踏み(前期比−0.1%)を除くと一貫として増加している。先行指標の新設住宅着工戸数(季調済み)が本年4月、5月と2か月減少したあと、6月から9月まで再び増加を続けていることから判断すると、今後も緩やかな増勢を続けるものと判断される。

【対米以外の輸出増加で9月の貿易収支は大幅な黒字】

 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」(季調済み、以下同様)は、9月に384億円の小幅黒字に転じた(図表2)。黒字は昨年12月(トランプ関税前の駆け込み輸出の増加)以来9か月振りである。9月は輸出が前月比+4.6%増、輸入が同+2.0%増となり、貿易収支は3255億円の黒字(前月比+3.57倍)となった。9月の関税統計を見ると、対米輸出(1兆6049億円)は自動車を中心に−13.3%の減少となっているが、アジア向け輸出(5兆1699億円)が半導体等電子部品、自動車を中心に9.2%の増加となっている。このため輸出は全体として前月比+2.4%の増勢を保っている。
 四半期ベースで貿易サービス収支を見ると、7月の赤字拡大が大きかったため、7〜9月期の貿易・サービス収支は8324億円の赤字と、4〜6月期(5094億円の赤字)よりも悪化している。このため、7〜9月期の実質GDP統計の「純輸出」は前期比悪化し、成長率の足を引っ張る形となろう。