2025年10月版
トランプ関税に伴う輸出の鈍化は8月に底入れしたが、7〜9月期の「純輸出」は成長に対しマイナス寄与の可能性

【3月以来の輸出鈍化傾向は8月に底入れ、景気は引き続き緩やかに回復】
 景気は引き続き緩やかに回復している。9月調査「日銀短観」の「業況判断DI」は、全規模全産業の製造業と非製造業が共に前回調査比横這いであったが、大企業と中堅企業の製造業は前回調査比改善した。8月の景気動向指数は、「一致指数」が低下したが、「先行指数」は上昇を続けている。9月の「景気ウォッチャー指数」は、景気の現状判断DIと先行き判断DIが、引き続き上昇を続けている。
 トランプ関税の影響を受けている輸出の動向を見ると、「日銀短観」の大企業製造業の輸出計画は本年度上期に前年比+0.3%に低下したあと、下期は同+1.0%に回復する計画となっている。足下の動きを見ると、鉱工業出荷の輸出は、2月をピークに7月まで前月比が低下傾向を辿ったが、8月には前月比+0.9%と底入れの気配を示している。より広く輸出全体をカバーしている国際収支統計(季調済み)の輸出を見ると、鉱工業出荷の輸出と同様に、本年2月をピークに7月まで低下傾向を辿ったあと、8月には前月比+3.6%の増加と底入れの気配を示している。
 国内では、消費者物価(生鮮食品、エネルギーを除く)が前年比3%台と高騰を続ける下で(図表2)、実質賃金は8月まで8か月続けて前年を下回っており(図表2)、日銀推計の「消費活動指数」は前月に続き8月も低下した(図表2)。

【生産、出荷は引き続き一進一退】
 8月の鉱工業生産と出荷は、生産が前月比−1.2%減と2か月連続して低下、出荷は+0.5%増と前2か月低下のあと上昇した(図表1)。8月の出荷の内訳を見ると、増加したのは輸出(前月比+0.9%増)で、国内向けはほぼ横這い(同−0.1%減)であった。製造工業生産予測調査によると、9月は前月比+4.1%、10月は同+1.2%と2か月連続の上昇となっている(図表1)。業種別に見ると、8月の生産低下は電気・情報通信機械の減少による面が大きいが、9月の予測調査ではこれらの業種で再び上昇する見込みである。また9月と10月の予測調査で上昇をリードしているこの他の業種は、生産用機械、輸送機械などである。
 これらの動向から推察すると、今後の生産、出荷の増加を支えるのは国内の設備投資関連で、輸送機械などの輸出関連がややその足を引っ張る形になるのではないか。

【物価高騰下、個人消費は雇用の堅調に支えられて保ちこたえ】
 国内需要の動向を見ると、8月の「家計調査」の民間実質消費支出(季調済み)は、前月比+0.6%と前月(同+1.7%)に続き、2か月連続で増加した。一方8月の「実質消費活動指数」(日銀推計、図表2)は、前月比僅かに低下した。一方9月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、8月に続き、2か月連続で上昇した。3%台の消費者物価上昇が続く中、8月の実質賃金が年初から8か月連続して前年比低下している(図表2)もとで、消費が比較的安定しているのは、人手不足を背景とする雇用環境の安定によるものと見られる。より良い職を求めて自己都合で退職する人が増え、8月は珍しく失業率が上昇し(図表2)、新規求職者が増えて新規求人倍率が2.15と前月(2.17)比低下した。

【設備投資は合理化投資に支えられて増勢持続】
 設備投資の動向は見ると、機械投資の動向を示す資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、振れの大きい統計である。6月(前月比+7.5%)に大きく増加したあと、7月(同−10.0%)に大きく減少したが、8月は前月比+2.2%の増加となった。やや長い目で見ると、昨年10〜12月期(前期比+4.5%)と本年1〜3月期(同+4.7%)に大きく増加したあと、本年度に入って4月以降は一高一低の横這い傾向となっている。
 9月調査「日銀短観」の全規模・全産業の本年度設備投資計画(ソフトウェア・研究開発投資を含み、土地投資を除く)は、6月調査時より0.8%上方修正され、前年比+10.3%の増加となっている。このうちソフトウェア投資額は、前年比+17.0%で、引き続き合理化、生産性向上の意欲は強い。

【貿易サービス収支は、7月の大幅赤字のあと8月は大きく赤字縮小】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する8月の国際収支統計(季調済み)の「貿易・サービス収支」(季調済み)は、前月の赤字拡大(7289億円)のあと、8月は赤字が大きく縮小(同1419億円)した(図表2)。これは、貿易の赤字が前述の輸出底入れを反映して、大きく縮小したためである(7289億円の赤字→1419億円の赤字)。
 8月の通関統計(季調済み)では輸出が横這い(前月比-0.1%)となった。米国向け輸出が、自動車を中心に前月比−13.8%の減少となる反面、アジア向け・EU向けの輸出が、自動車、半導体電子部品、同製造装置などを中心に夫々+1.7%、+5.5%の増加となっている。
 9月の国際収支統計の発表を持たなければ7〜9月期のGDP統計の外需の動向は断定できないが、7月の貿易サービス収支の赤字拡大が大きかっただけに(図表2)、成長に対してマイナスの寄与となる可能性が高い(図表3)。