2025年6月版
トランプ関税の影響で4〜6月期の景況感はやや悪化したが、国内民需に支えられて7〜9月期以降は立ち直る見込み
【トランプ関税で対米輸出関連業種の景況感は一時的に悪化、先行きは設備投資、住宅投資に支えられて回復基調は続く見込み】
トランプ関税の悪影響が、4〜6月期の景況感に出てきた。4〜6月期の「法人企業景気予測調査」によると、大企業全産業の「景況判断指数」(BSI)が、5四半期振りにマイナスとなった。これは大企業製造業のうち、鉄鋼、自動車・同付属品、金属製品など対米輸出関連業種のBSIがトランプ関税発表によって大幅に悪化し、これに伴って大企業製造表全体のBSIも悪化してマイナスとなったためである。しかし、大企業全産業のBSIは、製造業のBSIを含め、7〜9月期、10〜12月期には再びプラスに戻っている。これは、企業が日本経済全体の回復維持に不安を持っていないためと思われる。
成長の趨勢は、国内民間需要に支えられている。食料品を中心とする消費者物価上昇率の高止まりで、個人消費は引き続き停滞気味であるが、整備投資は期末を過ぎた後も確りしている。また、年明け後民間住宅投資の足取りが確りしてきた。
中国の春節の早まりにつれて貿易収支の不規則変動があり、10〜12月期の成長率(前期比年率+2.2%)に上振れ、1〜3月期の成長率(同−0.2%)に下振れを起こしたが、4〜6月期の「純輸出」は平常に戻っている。4月の国際収支統計の「貿易サービス収支」の赤字は、やや縮小した(図表2)。
【生産、出荷は一進一退ながら国内向け資本財を中心に水準を徐々に切り上げ】
4月の鉱工業生産は前月比−0.9%と3か月振りに減少し、一進一退を続けている(図表1)。
一方出荷は、同+0.2%と僅かに増加した。これは国内向け出荷が同+0.6%と電子部品・デバイス、情報通信機械など資本財(除、輸送機械)を中心に伸びたためで、輸出はトランプ関税前の駆け込みが終わったこともあり、対米向け自動車などを中心に同−1.3%と減少した。
製造業生産予測調査によると、5月は前月比+5.2%、6月は同−3.4%と引き続き一進一退を繰り返す見込みであるが、年明け後の趨勢としては、資本財を中心に水準はジリ高となっている(図表)。
【物価高騰下消費は停滞気味、反面住宅投資に動意】
国内需要の動向を見ると、実質GDP統計の民間消費は、24年10〜12月期と25年1〜3月期に、いずれも前期比+0.1%と低い伸びにとどまっている。4〜6月期に入ってからも食品を中心とする消費者物価高騰(4月の消費者物価中の食料は前年比+6.5%上昇)の下で、消費は停滞気味に推移している。実質賃金は4月も前年水準を下回り、本年に入って4か月連続で前年比マイナスとなっている(図表2)。
「家計調査」の季調済み実質消費支出は、前2か月増加のあと、4月は前月比−1.8%の減少となった。一方、「実質消費活動指数」(日銀推計)は、3月に減少(前月比−0.8%)したあと4月は同+0.5%の増加となった。
5月の「消費動向調査」の「消費者態度指数」は、前5か月低下を続けたあと、5月は久方振りに前月比+1.6%の小幅上昇となった。
この間民間住宅投資は、昨年中減少を続けてきたが(24年10〜12月の実質民間住宅投資の前年比−1.5%)、本年1〜3月期は前期比+1.4%、前年同期比+3.1%と増加に転じた。先行指標の「新設住宅着工戸数」(季調済み)も、本年2月から増加傾向に転じている。
【設備投資は当面の成長を支える柱】
次に設備投資の動向を見ると、実質GDP統計(2次速報)の設備投資は、24年度中、4四半期連続して増加し、最終四半期の25年1〜3月期は前期比+1.2%、前年同期比+3.1%の増加となった(図表3)。この程公表された25年1〜3月期の「法人企業統計調査」を反映したもので、名目設備投資は前年比+5.7%、季調済み前期比+2.0%と確りした伸びとなっている。
設備投資のうち機械投資の動向を反映する鉱工業統計の資本財(除、輸送機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、1〜3月期に前期比+4.7%と高い伸びを示したあと、4月も前月比+1.1%の増加となった(図表2)。先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)も、3月は前月比+13.0%、1〜3月期は前期比+3.9%と確りした伸びを示している(図表2)。
設備投資は当面の経済成長を支える柱となっている。
【10〜12月期と1〜3月期の貿易収支に不規則変動があり、成長率も上振れと下振れ】
最後に外需の動向を見ると、1〜3月期の実質GDP統計の「純輸出」は、輸出の停滞、輸入の増加から、成長率に対する寄与度が前期比−0.8%と大きく悪化し、内需の成長期寄与度(同+0.8%)を相殺して、1〜3月期の実質成長率(2次速報)をゼロとした。しかし、4月の実質GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、3279億円の赤字と1〜3月期の月平均(7794億円の赤字)に比し、赤字が縮小している(図表2)。これは主として貿易収支の赤字が、輸出の減少を上回る輸入の大幅減少から縮小したためである。
この大きな不規則変動は、例年2月中頃に行われる中国の春節が今年は1月末から行われたために、対中輸出が早まって生じたもののようである。このため日本の実質成長率に対する「純輸出」の寄与度が、10〜12月期に+0.7%に高まり、1〜3月期に−0.8%に落ち込み、成長率も10〜12月期は年率+2.2%に高まり、その反動で1〜3月期は年率−0.2%に落ち込んだ。
この攪乱は4〜6月期にもやや残り、「純輸出」の成長寄与度が小幅にとどまるかもしれない。しかし全体の成長率は国内需要、とくに立ち直ってきた設備投資や住宅調子の動向に支えられている。