2025年4月版
トランプ関税実施前の駆け込み輸出で、1〜3月期は3期連続のプラス成長となる可能性は高いが、4〜6月期以降は不透明
【2月の輸出、生産、貿易収支は対米駆け込み輸出で好転、先行き感は悪化】
トランプ米国大統領は、4月9日0時から大幅な相互関税を実施したが、その13時間後に、中国以外の国に対する課税を90日間停止した。株価下落、国債下落(長期金利上昇)、ドル安のトリプル安の気配が出てきたためと見られる。
日本では大幅な株安と若干の円高が発生しているが、実体経済に対する本格的な影響は4月以降の指標を待たねば分からない。取り敢えずは、対米駆け込み輸出の増加で2月の貿易収支が大幅な黒字となり、2月の鉱工業生産、出荷は前月比増加した。
しかし、4月以降の世界経済の混乱を予想し、3月調査「日銀短観」の大企業製造業の「業況判断DI」が、1年振りに悪化した。2月の「景気動向一致指数」は3か月連続で上昇しているが、「先行指標」は3か月振りに下降に転じた。
日本経済は駆け込み輸出の影響で、1〜3月期にはプラス成長となる可能性が高いが、4〜6月期以降は不透明である。
【1、2月の生産、出荷は駆け込み輸出で増加】
2月の鉱工業生産と出荷は、夫々前月比+2.5%、同+3.0%と共に4か月振りの増加となった(図表1)。製造工業生産予測調査によると、3月は同+0.6%、4月は同+0.1%と3か月連続の増加が予測されている。ただし、仮に鉱工業生産と実績がこの通りの増加になったとしても、1〜3月期の平均は10〜12月平均比横這いにとどまる(図表1)。鉱工業生産の実績伸び率は製造工業生産の予測伸び率を下回ることが多いので、1〜3月期平均の実績は、10〜12月期平均をやや下回り、4四半期振りの前期比減少となる可能性が高い(図表1)。
1、2月の出荷動向から見ると、10〜12月期に比して水準が下がっているのは国内向け出荷で、輸出は1〜2月平均の10〜12月平均比で+5.3%と大きく上回っている。とくに2月の輸出増加には、米国の関税引き上げ前の駆け込みと見られる。他方、国産品の国内向け出荷はやや減少しているが、輸入が増加しているので、1〜2月平均の国内総供給(両者の和)は10〜12月平均比+0.4%増と僅かに上回った。
【消費者物価の根強い上昇の下で消費者の支出態度は弱気】
国内需要の同行をみると、2月の「家計調査」の実質消費支出は、前月減少の反動もあって前月比+3.5%の大幅増加となった。2月の「実質消費活動指数」(日銀推計)も同+0.7%と、5か月連続に減少したあと、2か月連続の増加となった(図表2)。二つの指標から判断すると、消費は強含み横這いで推移している。しかし3月調査「消費動向調査」によると、「消費者態度指数」は、3月まで4か月連続して低下している。根強い消費者物価の上昇で、実質賃金の前年比は11〜12月にプラスとなった後、1〜2月は再びマイナスとなっていることが響いているのであろう。
消費者物価の基調を示すと見られる「消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)」(所謂コアコアCPI)の最近の推移をみると(図表2)、前年比は昨年9月に+1.9%まで低下した後、再び上昇傾向に転じ、本年2月は+2.6%に達した(図表2)。また日本銀行が消費者物価の基調的変動を見るために調べているCPIの刈込平均値、加重中央値、最頻値も、昨年の秋頃を底に再上昇に転じ、CPIの中の上昇品目の比率から下落品目の比率を差し引いた差も拡大している。
これらから判断すると最近の消費者物価の上昇基調は徐々に強まりつつあり、これを肌で感じている消費者の支出態度の腰は弱いのではないかと見られる。
【設備投資は引き続き底固い】
機械投資の同行を反映する資本財(除、輸出機械)の国内総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、昨年10〜12月期に前期比+4.5%の増加となったあと、本年1月も前月比+9.7%と大きく伸びた。しかし、さすがにその反動もあってか2月は前月比−6.3%の減少となった。もっとも水準としては、2月も10〜12月期を+4.2%上回っている(図表2)。期末を迎え、機械投資は活発なようだ。
3月調査「日銀短観」によると、24年度の設備投資計画(金融機関を含む全産業、ソフトウェア・研究開発を含み、土地投資を除く)は前年比+7.8%、25年度は同+2.7%となっている。24年度はほとんど実績に近く、25年度は期初計画なので、これから修正されていく可能性が高い。25年度は期初計画でもソフトウェア投資額は前年比+6.0%と比較的高い伸びとなっている。
ただし、トランプ関税に伴う世界景気の後退があると、本年度の設備投資にも悪影響が出よう。
【対米駆け込み輸出で2月の貿易収支は大幅な黒字】
最後に外需の動向を見ると、既にみたように4月からの米国の関税大幅引き上げを見込んだ2月の駆け込み輸出が目立っている。
2月の通関統計によると、2月の米国向け輸出は自動車を中心に前年同月比+10.5%となった。全体でみると輸出は前年比+11.4%、季調済み前月比で+4.0%である。
2月の国際収支統計(季調済み)では、輸出は前月比+13.2%増、貿易収支は2332億円の黒字に転じた。このため、GDP統計の「純輸出」に見合う国際収支統計の貿易サービス収支の赤字は、1337億円に縮小した(図表2)。
10〜12月期に続き、1〜3月期のGDP統計でも「純輸出」が成長にプラス寄与となるかどうかは、10〜12月期の「純輸出」が大きかっただけに、3月の国際収支統計を待たなければ分からない。