2023年12月版
景気は物価高騰に伴う国内民需の停滞から7〜9月期に足踏みしたあと、10〜12月期から再び緩やかな回復に戻る見込み

【実質GDP、鉱工業生産・出荷は7〜9月期減少のあと10〜12月期には再上昇の見込み】
 物価高騰に伴う家計消費、企業設備投資など国内民需の停滞から、景気上昇は7〜9月期に足踏み状態となった。7〜9月期の実質GDP(第2次速報値、以下同じ)は前期比−0.7%(年率換算−2.9%)と4四半期振りの減少となり(図表3)、鉱工業生産、出荷も7〜9月期には低下した(図表1)。
 しかし、輸出の着実な増加もあって、生産、出荷は9月から上向きに転じ、7〜9月期減少のあと、10〜12月期は増加に転じると見られる(図表1)。「消費動向調査」の「消費者態度指数」も、8月、9月に低下したあと、10月、11月は上昇に転じた。「景気ウォッチャー調査」の景気の「現状判断DI」は8月から10月まで低下したあと、11月には横這いとなり、「先行き判断DI」は11月に上昇に転じた。これらは年末に向かって、家計関連の小売・飲食・サービスが上向くと見ているためである。
 このほか、インバウンドの急増に伴う旅行収支の黒字急拡大から、10月の貿易・サービス収支(季調済み)が3年6か月振りに黒字に転じ(図表1)、外需の面から成長を支える動きも出てきた。
 この間、10月に国内企業物価指数の前年比が+0.8%まで低下したが、これが消費者物価(10月は前年比+3.3%)の前年比に響いてくるまでにはタイムラグがある。金融政策の転換による円安修正が消費者物価に響くのにも時間がかかる。物価高騰に伴う家計消費と企業設備投資の変調には、今後もまだ十分な注意が必要であり、10〜12月期以降の景気回復力についても、慎重に見ていく必要がある。

【生産・出荷の一進一退続く】
 鉱工業生産と出荷は、7、8月に2か月連続して減少したあと、9月は増加に転じ、10月も前月比夫々+1.0%、同+0.2%と増加した。製造工業生産予測調査によると、11月には−0.3%と再び小幅に減少したあと、12月は+3.2%の増加となる(図表1)。鉱工業生産と出荷は、久しく一進一退を続けているが、11月、12月の鉱工業生産がこの予測のように推移すると仮定すれば、7〜9月期減少(前期比−1.2%)のあと、10〜12月期は同+1.9%の増加となる。
 10月の出荷が小幅の増加にとどまったのは、国内向けが増加した半面、輸出が前月大幅増加(前月比+10.0%)の反動で減少(同−4.3%)したためである。他方輸入は10月まで6か月続けて増加しており、国内向け出荷に輸入を加えた10月の鉱工業製品国内総供給は前月減少(同−3.2%)のあと再び増加した(同+1.0%)。

【家計消費は名目で増加、実質で減少】
 国内民間需要の動向を見ると、7〜9月期GDP統計(2次速報)の家計消費は、名目値では前期比+0.4%の増加となったものの、消費者物価の高騰から、実質では同−0.1%の減少となった(図表3)。10月の実質消費支出は、「家計調査」では前月比−0.1%の減少、「実質消費活動指数+」(日銀推計)では同+0.7%の増加と区々の動きとなっている(図表2)。
 総じて家計消費は、消費者物価の上昇(10月は前年比+3.3%、季調済み前月比+0.7%、図表2)が続く下で、実質所得が減少しているため(10月の実質賃金は前年比−2.3%減少)、冴えない。明年の賃上げ率がどうなるか注目される。
 雇用増加・失業減少の動きは人手不足の下で鈍いが、10月の完全失業率は前月に続き2か月連続で0.1%ポイントずつ低下し、2.5%となった(図表2)。

【7〜9月期の投資は、民間、公共ともに冴えない動き】
 7〜9月期の実質GDP統計では、企業設備投資は前期比−0.4%(図表3)、民間住宅投資は同−0.5%と民間投資はいずれも振るわなかった。本年度の設備投資計画は、いずれの調査も前年比2桁の伸びとなっているが、設備投資の場合も、予想外の物価上昇で予算が不足してくると、投資を繰り延べたり、削減したりすることがあるようだ。
 機械投資の動きを反映する資本財(除、輸送機械)の10月の出荷は、前月減少(前月比−3.0%)のあと+2.6%の増加となったが、直近のピークである5月の水準を−4.2%下回っている(図表2)。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、9月に前月比+0.5%増となったが、7〜9月期を合計すると前期比−1.8%となり、4〜6月期(同−3.2%)に続き、2四半期連続して減少した(図表2)。
 7〜9月期GDP統計の実質公共投資は、前期比−0.8%と3四半期振りに減少した。

【インバウンドの増加から10〜12月期の外需は成長に対して大きなプラス寄与となる見込み】
 最後に外需の動向を見ると、7〜9月期の実質GDP統計の「純輸出」は、輸入の増加が輸出の増加を上回り、実質GDPの成長に対する寄与度は前期比−0.1%と僅かにマイナスであった(図表3)。
 他方「純輸出」に対応する10月の季調済み国際収支統計の貿易・サービス収支は、3274億円の黒字となった(図表2)。貿易・サービス収支が黒字に転じたのは、2021年5月以来で、3年6か月振りである。これは、10月の貿易収支は2915億円の赤字と引き続き赤字を続けているものの、コロナ後のインバウンド(訪日外国人)の増加が本格化してきたことに伴う旅行収支の黒字拡大から、サービス収支がこれまでの赤字傾向から一挙に6190億円の黒字に転じたためである。
 インバウンドの増加傾向は年末に向かって続いているので、10〜12月期の実質GDP統計では、「純輸出」が経済成長に対して大幅なプラス寄与となろう。