2023年8月版
景気回復が続く中、消費者の態度は前向きながら物価高騰持続で実質消費は伸び悩み
【製造業は立ち直ったが物価上昇持続で実質消費は頭打ち】
景気回復の足取りは確りしている。6月の景気動向一致指数は、3か月連続で上昇しているが、6月の上昇幅は製造業関連を中心に前2か月より拡大した。7月の景気ウォッチャー調査の「現状判断DI」も、前月に5か月振りに低下したあと、再び上昇した。
鉱工業生産、出荷は、設備投資の増加を背景に持ち直している。他方、コロナ関連の諸規制撤廃から、消費動向調査の「消費態度指数」は、7月もやや大きく上昇しているが、現実の「実質」消費は、昨年8月以来の消費者物価の3%を超える上昇が収まっていないため、実質消費指数は頭打ちとなっている。
消費者物価は、国際商品市況の高騰に伴うエネルギーなどの輸入コスト・プッシュが昨年末から本年初にかけて峠を越えたが、その国内物価への波及がなお続いていることに加え、輸入インフレ下で国内の予想物価上昇率や賃金上昇率が高まり、国内商品・サービスの値上げ(いわゆる国産インフレ化)が拡大している。輸入品値上がりの中心であるエネルギーと値動きの激しい生鮮食品を除いた消費者物価の前年比が、6月までの3か月間は総合指数の3%台を上回り、4%台に乗っている(図表2)。
【鉱工業生産、出荷は順調な回復軌道に】
6月の鉱工業生産、出荷は、夫々前月比+2.0%、同+1.5%と増加した。製造業生産予測調査によると、7月は前月比−0.2%と足踏みしたあと、8月は再び同+1.1%と増加する(図表1)。6〜8月の増加傾向の中心業種は、自動車、電子部品・デバイス、汎用・業務用機械などである。7月の微減と、8月の再上昇には、電気・情報通信機械の減少、増加が響いている。
鉱工業生産、出荷は昨年9月以降、サプライ・チェーンの中断などによる部品不足から本年1月まで大きく落ち込み、その後の回復も部品不足が十分回復せずに5月に再度減少するなど冴えなかったが、ここへきてようやく回復が順調になってきたように見える(図表1)。
【消費態度は前向きながら、物価上昇により実質消費は頭打ち】
国内需要の動向を見ると、6月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は、2月から4か月間減少したあと、前月比+0.9%と久し振りに増加した。前月までの減少傾向は、消費者物価の上昇に伴う実質消費の不冴による面が大きい。日銀推計の様々な「消費活動指数」(6月)は名目値の指数の前月比は増加したが、実質値の指数はいずれも前月比減少した(図表2)。
消費者の消費態度は、コロナ規制の解除から旅行、飲食などを中心に旺盛となり、「消費者態度指数」(消費動向調査)は7月も大きく上昇している。今後、根強い物価上昇が続く下で、前向きの消費態度がどのように推移するかが注目される。
背後の雇用動向は回復を続けている。6月の雇用者数は4か月続けて前月比増加しており、失業率は2.5%と前月比0.1ポイント低下した(図表2)。
6月の現金給与総額は前年比2.7%増加したが、これを上回る消費者物価上昇率の下で、実質賃金は前年比−1.6%と昨年4月から15か月連続で低下している。
【設備投資の増加には大幅増加の年度計画ほどの勢いがない】
設備投資の動向を見ると、機械投資の動向を反映する6月の資本財出荷(除、輸送機械)は、前2か月増加のあと前月比−0.8%とやや減少したが、4〜6月期全体では前期比+3.7%の大幅増加となっている(図表2)。
先行指標の5月の機械受注(民需、除船舶・電力)は、非製造業(除、船舶・電力)が前月比−19.4%と大幅に落ち込んだため、製造業は同+3.2%と増加したものの、全体で同−7.6%の減少となった(図表2)。
前年比2割増に近い本年度設備投資計画が、今後どのように実現されてくるのかが注目される。
【貿易収支の改善から経常収支の黒字は大幅に拡大】
最後に海外需要の動向を見ると、6月の経常収支の黒字は2兆3459億円と大きく拡大した(前月は1兆7027億円の黒字)。GDP統計の「純輸出」に対応する国際収支統計の貿易・サービス収支の赤字は、4554億円と前月(9433億円の赤字)に比し半減した(図表2)。
これは、輸出が8兆3724億円と前月(7兆8166億円)比+7.1%と大きく拡大した半面、輸入は鉱物性燃料の減少持続から前月比+1.1%の増加にとどまり、貿易収支の赤字が160億円に縮小したことが主因である(前月の赤字は4787億円)。
このような貿易収支の改善傾向に伴い、4〜6月期の貿易・サービス収支の赤字は1兆7532億円と前期(4兆9343億円の赤字)のほぼ3分の1に縮小した(図表2)。
来週15日に公表予定の4〜6月期GDPは、設備投資と個人消費を中心とする国内民需の拡大とならんで、純輸出の改善が成長に寄与することとなろう。