2023年7月版
景気回復に広がりが出てきたが、根強い物価上昇の持続で消費改善テンポに一服感も

【製造業の景況感がようやく好転、消費回復の先行きには足踏みの気配】
 景気回復の基調に広がりが見えてきた。「日銀短観」の「業況判断DI」は、3月調査まで、大・中堅・中小の各規模製造業で悪化が続いていたが、今回6月調査では、各規模製造業の現状・先行き判断がいずれも好転した。昨年から回復していた各規模の非製造業の「業況判断DI」は、6月調査でも現状では更に好転し、先行きは高水準で一服となった。
 6月調査の「日銀短観」や「法人企業景気予測調査」の本年度設備投資計画調査は、いずれも前年比12%前後の高い伸びとなっており、コロナ禍後のペントアップ消費需要と並んで、設備投資が景気回復を支えている。
 ただ、ここへきて改善テンポに一服感も窺われる。6月の「景気ウォッチャー調査」では、4か月続けて上昇してきた「景気の現状判断DI」が家計の小売・飲食関連を中心に、5か月振りに低下した。もっとも、6月の「消費者態度指数」は、6か月連続して上昇を続けているので、個人消費が腰折れしたとは見られない。ただ予想外に根強い消費者物価上昇(生鮮食品・エネルギーを除く5月のCPIは前年比+4.3%)が続いて実質所得の減少が長期化しているので、今後の消費マインドの動向には注目を要する。

【生産、出荷は部材不足が解消し4〜6月期から立ち直る】
 5月の鉱工業生産は、前月比−1.6%と4か月振りに低下した(図表1)。これは自動車工業の生産が半導体などの一時的部材不足で前月比−8.9%と大きく減少したほか、電子部品・デバイス、汎用・業務用機械などの機械生産も減少したためである。製造工業生産予測調査によると、6月はこれら機械工業の反動増加を中心に、前月比+5.6%の大幅増加となったあと、7月は同−0.6%と足踏みとなる見込みである(図表1)。
 6月の鉱工業生産が、この予測通りになったと仮定すると、4〜6月期は前期比+2.8%増と3四半期振りに増加する。部材不足などから2四半期連続して減少した鉱工業生産は、部材不足が徐々に解消し。4〜6月期から立ち直る気配を見せている(図表1)。
 5月の鉱工業出荷は、生産の減少とほぼ同じ理由で、自動車工業の一時的落ち込みを中心に前月比−0.6%と前月に続いて小幅に減少したが(図表1)、生産同様、6月には持ち直すと見られる。
 6月調査「日銀短観」の製造業の23年度上期売上計画を見ると、大企業の輸出が前年比−1.3%の減少を見込んでいるものの、中堅・中小を加えた全規模製造業の売上計画全体は、前年比+1.9%と小幅ながら増勢持続を見込んでいる。

【消費意欲はあるが物価上昇で消費の実績は抑えられている】
 国内需要の動向を見ると、まず消費は5月の「実質消費活動指数+」(日銀推計)が前月比横這い(図表2)、家計調査の「実質消費支出」は同−1.1%減と、横這いないし減少を示した。消費動向調査の「消費者態度指数」は、6月まで毎月上昇しているにも拘らず、5月の実質消費の実績が増加していないのは、物価上昇で消費購買力が削減されているためと見られる。
 因みに5月の現金給与総額(名目)はベースアップもあって前年比+2.5%(図表2)とこれまでよりやや高い伸びとなったが、全国消費者物価の上昇率が前年比+3.2%(生鮮食品・エネルギーを除くと同+4.3%<図表2>)に達しているため、実質賃金は同−1.2%と引き続き低下を続けている。
 この間、5月の雇用者数は3か月連続してジリジリと増加しており(図表2)、完全失業率は横這い、有効求人倍率は小幅上昇している。「日銀短観」の雇用人員判断DIは、引き続き大幅な「不足超」となっており、先行きもジリジリと不足の度合いが強まるとしている。人員不足は特に中小企業非製造業で激しい。

【設備投資はストック調整に伴う中期循環の上昇局面が合理化投資によって加速される形】
 国内の設備投資の動向を見ると、機械投資の動向を反映する5月の資本財出荷(除、輸送機械)は前月比+2.6%と2か月連続して増加し(図表2)、5月の水準は1〜3月平均比+4.8%増となっている。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、4月に前月比+5.5%増(図表2)、4〜6月期の見通しは前期比+4.6%増となっている。
 本年度の設備投資計画(ソフトウェア投資を含み、土地投資を除く)は、6月公表の「法人企業景気予測調査」では全規模企業、製造業・非製造業合計で前年比+11.2%増、6月調査「日銀短観」の全規模企業、製造業・非製造業・金融機関合計で同+12.3%増と、いずれも12%前後の高い伸びとなっており、投資意識の強さが窺われる。
 19年1〜3月期から20年7〜9月期までの景気後退局面で減少を続けてきた設備投資は、過剰な設備ストックの調整が完了し、20年10〜12月期から中期循環的な上昇局面に入っているが、加えて、23年度のソフトウェアへの投資の伸びが極めて高い(法人企業景気予測調査では前年比+17.2%増、日銀短観では同+19.7%増)ことに窺われるように、本年はDX、GXなどを始めとする合理的投資の意欲も極めて強い。

【エネルギー資源の国際市況下落から名目ベースの貿易サービス収支の赤字縮小傾向が続く】
 最後に外需の動向を見ると、GDP統計の「純輸出」に対応する5月に国際収支統計の「貿易・サービス収支」は、9433億円の赤字(図表2)と大きく縮小した前月の赤字(3545億円)よりは赤字幅が拡大したが、1〜3月の平均赤字(1万6447億円)に比べれば、前月同様、かなり縮小している。この結果、4〜5月の平均赤字(−6489億円)は1〜3月の月平均(−16,448億円)に比して大きく縮小している。
 これは、輸出が世界景気の減速を反映して昨年10月をピークに頭打ちとなっているものの、輸入が原粗油、石炭、LPGなどエネルギー資源の国際市況の低下から大きく減少しているため、貿易収支の赤字幅が縮小しているためである。もっとも、実質ベースでは、エネルギー資源の輸入は減っていないので、貿易サービス収支の赤字は縮小しておらず、GDPベースの「純輸出」は好転せず、成長率にプラスの寄与をしていない(図表3)。