2017年12月版
海外の政治、軍事上のリスクが現実とならない限り、明年の日本経済は順調に推移

【設備投資と輸出を中心に成長率と企業業績は一段と好転】
 本年7〜9月期のGDP統計の2次速報値が上方修正され、実質GDPは前期比+0.6%(年率+2.5%)、前年同月比は+2.1%となった。これで、17年度の実質成長率は、15年度(+1.4%)、16年度(+1.2%)をかなり上回る+2%前後になる可能性が高まって来た(図表3)。
 成長率を押し上げている主役は、国内の設備投資と純輸出である。
 12月調査「日銀短観」(12/15公表)でも、大企業製造業の「業況判断DI」は5四半期連続して好転し、リーマン・ショック直前の前回好況期のピークと並んだ。また大企業製造業の売上高経常利益率は本年度上期に大きく上昇し、本年度計画は前年度(7.33%)を上回り、バブル期や前回好況期も大きく上回る8.11%に達すると見込まれている。

【需給基調は緩やかに引き締まり、物価上昇率は徐々に高まる方向】
 需給基調(大企業製造業)をみると、国内の「製商品・サービス需給判断DI」はまだ小幅の「供給超過」であるが、海外の「製商品需給判断DI」は3%ポイントの「需要超過」に転じた。また「販売価格判断DI」
は大企業製造業で僅かながら1%ポイントの「上昇超過」に転じ、非製造業では4%ポイントの小幅「上昇超過」が続いている。需給面からの物価上昇圧力は、徐々に加わっているように見える。
 物価指数を見ても、10月の消費者物価(生鮮食品を除く)は前年比+0.8%となり、ゼロ%台で緩やかに上昇している(図表2)。11月の企業物価指数を見ると、前月比+0.5%、前年比+1.9%(国内品+1.5%、輸入品+2.8%)と内外の需給引き締まり傾向を反映して上昇している。これが多かれ少なかれ国内の消費者物価に響いてくるのは、時間の問題であろう。物価目標の2%は高すぎるが、消費者物価は来年初めには1%台に乗ってくるのではないかと見られる。

【鉱工業生産、出荷は設備投資と輸出関連を中心に高まる傾向】
 最新の景気指標を見ていくと、まず10月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+0.5%、−0.5%となった。製造工業生産予測調査によると、11月は前月比+2.8%の上昇、12月は同+3.5%の上昇と2か月連続でやや大きく上昇する見込みとなっている(図表1)。鉱工業生産の実績がこの製造工業の予測通りに増加すると、10〜12月期は前期比+3.6%と大きく上昇する。実際は実績が予測よりも低くなると思われるが、10〜12月期に増勢がやや高まる可能性はある。
 この上昇加速をリードする業種は、汎用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気機械・輸送機械など、設備投資関連と輸出関連の機械工業である。

【雇用者報酬は増加しているが、家計消費はやや足踏み】
 国内需要の動向を見ると、家計消費は天候の影響で8月と9月が振るわず、7〜9月の実質GDP統計でも前期比−0.5%と5四半期振りの減少となった。しかし日銀の「実質消費活動指数+」によると、8月、9月と落ちた後、10月は105.2(前月比+0.3%増)とやや回復した。しかし、まだ4〜6月の水準(105.7)には届いていない(図表2)。
 しかし、背後にある実質GDP統計の雇用者報酬は、7〜9月期に前期比+0.7%と3四半期続けて増加している。家計調査の10月の実収入(勤労者家計、実質)も前年比+1.7%と4か月連続で前年を上回っている。これは、10月の実質賃金が前月比+0.2%増(図表2)、常用雇用が+0.2%増となるなど、賃金・雇用が引き続きジリジリと回復しているためである。
 10月の完全失業率は2.8%と横這いであったが(図表2)、有効求人倍率は1.55と上昇した。12月調査「日銀短観」の「雇用人員判断」DIも、各規模の製造業・非製造業・金融機関で「不足超」がジリジリと拡大している。その幅は、バブル期に次いで2番目の厳しさとなっている。

【設備投資は底固い増勢】
 10〜12月期の実質GDP統計における設備投資は、「法人企業統計」の設備投資の前年比が+4.2%と強めであったことを反映して、1次速報の前期比+0.2%から2次速報では同+1.1%に上方修正された。
 先行指標の機械受注(除、船舶・電力)は、10月に前月比+5.0%増となった。この水準は、7〜9月期平均を0.3%上回っている。
 12月調査「日銀短観」の本年度設備投資計画(ソフトウェア・研究開発投資を含み、土地投資を除く)は、製造業・非製造業・金融機関の合計で、前年比+7.7%と前回調査より+0.7%上方修正された(前年度は+0.4%)。

【住宅投資と公共投資は頭打ち】
 7〜9月期実質GDP統計の住宅投資と公共投資は、前期比それぞれ−1.0%、−2.4%といずれも減少した。
 先行指標の「新設住宅着工戸数」は、7〜9月期に頭を打って微減しており、10月も前月比−2.0%の減少となった(図表2)。また公共建設工事受注額は、7〜9月期に前年比−12.1%とやや大きく減少したあと、10月は同+15.4%となった。
 住宅投資と公共投資は、このような先行指標の動きから判断して、7〜9月期以降も頭打ちのまま、弱含みで推移すると見られる。

【世界経済の立ち直りを背景に輸出は順調に拡大】
 国内需要が設備投資を除いて振るわない一方、外需では輸出の堅調が続いている。7〜9月期の前期比実質成長率+0.6%のうち、+0.5%は「純輸出」によるものである。
 10月も貿易サービス収支(季調済み、以下同じ)が8237億円と、著増した7〜9月平均の更に1.85倍に達した(図表2)。
 今後を展望しても、米国経済の順調な景気上昇に加え、欧州各国の回復も次第に確りしてきており、新興国も一斉に立ち直ってきているので、前述の「日銀短観」にもあるように、海外における需給基調はジリジリと引き締まり、日本の輸出環境の不安は後退しよう。
 来年、2018年は、北朝鮮、トランプ政権、中東情勢などに政治、軍事上のリスクはあるものの、これらのリスクが表面化して経済を攪乱しない限り、比較的順調に推移すると思われる。