2017年9月版
内需中心の着実な成長に今後は外需の回復も寄与する気配

【生産、出荷は大きな振れを伴いながら増勢を維持】
 完全雇用の領域に入った日本経済は、引き続き緩やかな足取りで順調に成長している。
 7月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−0.8%、−0.7%の減少となったが、これは前月急増(前月比それぞれ+2.2%、+2.5%)の反動である(図表1)。製造工業生産予測調査によると、このあと8月は同+6.0%の急増、9月は同−3.1%の反動減となる。8月と9月の鉱工業生産が製造工業の生産予測通りと仮定すると、7〜9月期は前期比+2.3%と前期(同+2.0%)をやや上回る増加となり、増加基調は維持されている。
 実績は予測よりも低くなることが多いので、これ程の高い伸びにはならないとしても、7〜9月期が4〜6月期並みの比較的高い増勢を保つ蓋然性は高い。生産が大きな振れを伴いながら、ならしてみると増勢を保っているのは、主として汎用・生産用・業務用機械、電気機械、情報通信機械、電子部品・デバイスなどの動きによるものである。

【7月の国内向け総供給は反動減】
 前月比−0.7の出荷を内外別に分けると、国内向けが同−0.6%、輸出が同−2.0%であった。この国内向けに輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が増加したため、前月比横這いであった。
 これは、4〜6月期に前期比+1.6%とやや大きく伸びたことの反動と見られる。財別には、資本財(除輸送機械)が4〜6月期に前期比+7.3%と著増したあと、7月に−3.4%の反動減となったことの影響が大きく出ている。

【家計消費は緩やかながら増勢を保つ】
 需要動向を見ると、7月の「実質消費活動指数+」(日銀試算)は、前月比+0.3%の増加となったが、水準としては大きく伸びた4〜6月期(前期比+1.1%)とほぼ同水準である(図表2)。7月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は前年比−0.2%の減少となったが、3か月後方移動平均の前年比を見ると、7月は+0.7%と前月(+0.2%)に続いて前年水準を上回っている。家計消費は緩やかながら増勢を保っていると見られる。

【完全雇用の下で賃金と雇用はジリジリと増加】
 「毎勤」によると、7月の現金給与総額(季調済み)は前月比+1.1%、4〜6月平均比+0.8%の増加となった。
 7月の雇用(いずれも季調済み)は、「毎勤」の常用雇用者、「労調」の就業者、雇用者(図表2)が、それぞれ前月比+0.4%、同+0.2%、同+0.3%といずれも増加した。
 このところ職を求めて労働市場に出てくる人が増えているため、7月の労働力人口は前月比+0.2%増加した反面、非労働力人口は同−0.1%の減少となったため、完全失業者は同+0.5%の増加となった。このため完全失業率は2.8%の前月比横這いにとどまったたが(図表2)、日本経済の現状が完全雇用の域に入っていることは間違いない。因みに7月の有効求人倍率は1.52と前月より0.01ポイントに上昇し、過去のピーク(バブル期の1.45)を上回って上昇している。
 このような賃金、雇用情勢が、家計消費の根強い増勢を支えていると見られる。

【設備投資は着実に増加】
 足許の設備投資動向を反映する資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、4〜6月期に前期比+7.3%と急伸した反動で、7月は前月比−3.4%、4〜6月期平均比−3.4%の減少となった(図表2)。
 GDP統計の4〜6月期設備投資(実質)は、鉱工業出荷など物流統計に依存する1次速報では、前期比+2.4%(成長寄与度+0.4%)の大幅増加であったが、法人企業統計に依存する2次速報では同+0.5%(同+0.1%)に大きく下方修正された。法人企業統計の調査範囲などに問題があることは、かねて指摘されており、GDP統計の設備投資の推計方法については、急いで改善するのが望ましい。
 7月の機械受注(民需、除船舶・電力)は前月比+8.0%の大幅上昇となり、4〜6月平均を+5.8%上回った。7〜9月期の見通しも+7.0%の増加である。
 設備投資は今後も着実に増加すると見られる。

【住宅投資と公共投資は高水準で引き続き強含み】
 7月の新設住宅着工戸数は、97.4万戸(季調済み年率)と引き続き高水準ながら、4〜6月平均を−2.8%下回った(図表2)。
 他方、7月の公共工事受注額は前年比+3.9%と再び前年を上回った(図表2)。前年度第2次補正予算執行の影響が尾を引いていると見られる。
 これらの先行指標の動向から見て、住宅投資と公共投資は、7〜9月期も高水準のまま強含みで推移する公算が高い。

【7月の外需は大幅に拡大】
 貿易サービス収支(季調済み)の黒字は、昨年10〜12月期をピークに減少傾向を辿ってきたが(図表2)、7月は4002億円と本年1〜6月の平均(2369億円)を68.9%うわまわった(図表2)。これは輸出が大きく増加(前月比+6.1%)した反面、輸入がほぼ横這い(同+0.1%)にとどまり、貿易収支の黒字が5287億円(4〜6月平均比2.3倍)に拡大したためである。
 また7月は所得収支も1兆8232億円に達したため、経常収支の黒字は2兆329億円に拡大した。これは本年1〜6月平均の1兆6917億円を+20.2%上回っている。
 8、9月の動向を見なければ分からないが、このところ成長寄与度が低かった外需(純輸出)が、7〜9月期には大きく成長に寄与する可能性がある。因みに、外需の成長寄与度は1〜3月期が+0.1%、4〜6月期が−0.3%であった。

【4〜6月期の2次速報値は疑問】
 4〜6月期の実質成長率は、1次速報値の前期比+1.0%(年率+4.0%)の高成長から、2次速報では同+0.6%(同+2.5%)の中成長に下方修正された。これは主として設備投資が物流統計に基づく1次速報値の前期比+2.4%(成長寄与度+0.4%)から、調査範囲などについて問題が指摘されている法人企業統計に基づく2次推計で同+0.5%(同+0.1%)に下方修正されたためである(図表3)。将来、設備投資が物流統計からもっと正確に推計されれば、成長率はやや上方修正される可能性がある。
 4〜6月の国内需要の実勢がもう少し強いとすれば、この傾向が7〜9月期に受け継がれた場合、更に外需の好転も加わるので、成長率が上がってくる可能性もある。