2014年9月版
本年の経済成長は家計消費、住宅投資を中心に下振れ

【駆け込み需要の反動減は7〜9月の鉱工業生産にも影響】
 消費増税前の駆け込み需要の反動減は、予想外に長く尾を引いているが、それとは別に、家計消費、住宅投資、公共投資の基調が弱いことから、経済成長の下振れ懸念が強まってきた。
 7月の鉱工業生産は、前月比+0.2%の微増にとどまり、7月に製造工業生産予測調査の同+2.5%増を大きく下回った。4〜6月期は−3.8%の反動減となったが、7月の水準は4〜6月期の平均を更に−1.8%下回っている(図表1)。
 製造工業生産予測調査によると、8月は前月比+1.3%増、9月は同+3.5%増となった。鉱工業生産の実績が仮にこの予測調査通りとなれば、7〜9月平均はほぼ4〜6月平均に並ぶことになる。しかし最近は実績が予測を常に下回る傾向にあるため、7〜9月期が4〜6月期を下回る可能性もある。いずれにせよ、駆け込み需要の反動は予想外に長く影響を残している。

【鉱工業の国内向け総供給は7月に一段と低下】
 7月の鉱工業出荷は、前月比+0.7%の増加となったが(図表1)、これを国内向け出荷と輸出に分けてみると、国内向けは前月比−0.1%の微減、輸出は同+4.4%の増加であった。
 この国内向け出荷に輸入を加えた国内向け総供給は、輸入が同−4.6%とかなり減少したため、同−1.0%の減少となった。国内向け総供給は、駆け込み需要の反動で4〜6月期は前期比−7.1%の大幅減少となったが、7月はこの4〜6月期の平均を更に−1.1%下回っている。
 財別に見ると、7月の水準が4〜6月期の平均を下回っているのは、建設財(−3.1%減)と耐久消費財(−9.8%減)で、住宅投資と家計消費における駆け込み需要の反動減が7月も続いていることを窺わせる。

【実質家計消費は耐久消費財を中心に7月も減少】
 需要動向を見ると、7月の「家計調査」の実質消費支出(2人以上の世帯)は、前年比−5.9%、季調済み前月比−0.2%と共に減少となった(図表2)。季調済み実質消費支出は、4〜6月期に駆け込み需要の反動から前期比−9.3%の大幅減少となったが、7月はこの4〜6月期の水準をまだ−0.3%下回っており、反動減が続いていることを示している。
 販売統計では、7月の小売販売額が前年比+0.5%増と4か月振りに前年を僅かに上回ったが、乗用車新車登録台数や家電販売額など耐久消費財関係は引き続き前年を下回っている。

【実質賃金が前年を下回っているため7月も実質可処分所得は前年比減少】
 消費支出の背後にある家計の実質可処分所得(勤労者世帯)は、7月も前年を−5.2%と大きく下回っている。「毎勤」の現金給与総額(名目)は、大企業を中心に久し振りにベースアップが実施され、また夏のボーナスも増えたため、7月は前年比+2.6%増となったが、7月の消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く)上昇率(前年比+4.1%)には及ばず、実質賃金指数は同−1.4%と13か月連続で前年を下回った(図表2)。
 他方、「労調」の就業者数は7月も前年比+0.7%と増加しているが、実質賃金の減少を相殺して実質所得全体を押し上げる程ではない。
 7月の完全失業率は3.8%と前月比+0.1%ポイント上昇し、有効求人倍率は1.10と前月比横這いであった。雇用情勢の回復は遅々としている。

【7〜9月期は設備投資と公共投資が増加、住宅投資が減少の見込み】
 投資動向を見ると、設備投資は1〜3月期に前月比+7.7%と大きく増加したあと、4〜6月の反動減は前期比−2.5%と比較的小幅にとどまった。足許の設備投資動向を示す7月の資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)は、前月比+3.9%と2か月連続して増加した(図表2)。7月の水準は、4〜6月平均に比して+5.2%の水準にあり、7〜9月期の設備投資は1〜3月期までの増加基調を回復しそうである。
 新設住宅着工戸数は、昨年10〜12月期をピークに減少傾向を辿っており、7月は4〜6月期の平均を更に−5.4%下回っている(図表2)。7〜9月期の住宅投資は、4〜6月期に続いて減少すると見られる。
 公共投資は、1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して減少したが、公共建設工事受注高の前年比は、4〜6月期+30.0%、7月+24.0%と伸びているので(図表2)、7〜9月期は再び増加に転じる可能性がある。

【純輸出は4〜6月期に続き緩やかな回復傾向】
 最後に外需の動向を見ると、7月の通関ベースの輸出入(季調済み)は、輸出が前月比+1.5%、輸入は同+0.6%となり、貿易収支の赤字額は−4.1%縮小した。
 始めに述べた鉱工業製品の輸出入(同)も、7月は輸出が前月比+4.4%の増加、輸入が−4.6%の減少であった。
 実質GDPベースの純輸出は、4〜6月期に4四半期振りに好転したあと、7〜9月期も緩やかな立ち直りを続ける蓋然性が高い。

【4〜6月期のマイナス成長は7〜9月期だけでは回復出来ない見込み】
 7〜9月期全体の動向を7月の指標から推し測るのは限界があるが、恐らく7〜9月期は成長に対して設備投資、公共投資、純輸出がプラスの寄与となり、家計消費、住宅投資、在庫投資がマイナスの寄与となる蓋然性が高い。
 成長率は、4〜6月期の落ち込み(前期比年率−6.6%)を完全に取り戻す程高いプラスにはならないのではないか。