2013年8月版
国内企業物価、消費者物価、GDPデフレーター、雇用者報酬の上昇はデフレ脱却の前兆となりうるか

【4〜6月期の経済実勢は実質GDP統計の表面計数が示す程弱くはない】
 4〜6月期の実質GDPは前期比+0.6%(年率+2.6%)と前期(同+0.9%、年率+3.8%)や大方の予想を下回る成長率となったが、在庫投資減少の影響(成長率に対する寄与度−0.3%)を除いた最終需要の伸びでは前期比+0.9%(年率+3%台後半)と高く、また海外からの所得収支と交易条件を加えた実質国民総所得(GNI)は、前期比+1.4%(年率+5.6%)と高い伸びを示している。
 4〜6月期の日本経済の実勢は、実質GDP成長率の表面数字が示す程弱くはなかった。この勢いは、7〜9月期にも受け継がれていると見られる。
 そうした中で、消費者物価、国内企業物価、GDPデフレーターで測ったインフレ率は、プラス圏内に入って少しずつ上昇している。5年間低迷していた名目雇用者報酬も、1〜3月期に続いて4〜6月期も前期比プラスとなり、4〜6月期の前年同期比は+1.0%となった。
 このような動きがデフレ脱却の始まりとなるのかどうか、当分は目が離せない。

【鉱工業生産は、一高一低のうちに回復傾向が顕著】
 6月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ−2.3%、−3.4%の減少となったが、製造業生産予測調査によると、7月は前月比+6.5%の急増、8月は同−0.9%の微減となる(図表1)。このような月ごとの大きな振れは、輸送機械、電子部品・デバイス、汎用・生産用・業務用機械の3業種の生産・出荷の振れによる面が大きい。
 しかし、ならして見ると、7〜8月の生産予測の平均は前期を+1.4%上回った4〜6月平均を更に+4.4%も上回ることとなっており、回復傾向に変わりは見られない。7月の鉱工業生産の実績が製造業生産予測と同じ伸びとなると、7月の水準は生産が落ち込む前の昨年初の水準とほぼ同じレベルに回復することになる(図表1)。

【鉱工業出荷は輸出よりも国内向けがリード】
 6月の出荷を国内向けと輸出に分けると、前月比減少したのは国内向けで、輸出は前月比+1.0%の増加であった。しかし、4〜6月期をならして見ると、国内向けは前期比+1.8%、輸出は同+0.7%と、国内向けの伸びの方が高い。
 この国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総出荷を見ると、4〜6月期は輸入が前期比+0.4%の増加にとどまったため、全体は同+1.5%増加であった。
 4〜6月期の鉱工業製品の輸出入は、輸出の伸びが低かったものの、輸入の伸びは更に低かったため、1〜3月期に続いて収支が好転した。

【家計消費は引き続き底固い、賃金は上昇していないが雇用の緩やかな回復が支え】
 需要動向を見ると、家計消費は6月の小売業売上高が前年を+1.6%上回り、4〜6月平均も同+0.7%と増加した。他方、「家計調査」では、6月の実質消費支出(全世帯、住居・自動車購入等を除く)が前年比+2.5%の増加となり、4〜6月をならしてみても前年を上回った。GDP統計の実質消費支出が前期比+0.8%と底固い動きとなったことと平仄が合っている。
 6月の「労調」の就業者数、雇用者数、「毎勤」の常用雇用者数は、前年比それぞれ+0.5%、+0.8%、+0.7%と引き続きジリジリ増加している。他方、「労調」の完全失業者数は前年比−9.7%の減少となり、6月の完全失業率は前月の4.1%から3.9%に低下した(図表2)。
 6月の「毎勤」では賃金の前年比が名目で+0.1%、実質で−0.3%となったが、4〜6月平均では名目で増加し、実質で横這いであった。
 「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)の前年比は、6月に+1.4%、4〜6月に+1.7%の増加となった。賃金は上がっていないが、雇用がジリジリと回復しているためであろう。4〜6月期のGDP統計でも、雇用者報酬の前期比が、名目で+0.3%、実質で+0.4%と2四半期連続で増加した。

【住宅投資と公共投資は増勢持続】
 投資動向を見ると、4〜6月期のGDP統計では住宅投資と設備投資が前期比微減、公共投資が6四半期連続の増加となった。
 しかし、住宅投資関連の新設住宅着工戸数は、4〜6月期までの6四半期間、はっきりと増勢を辿っており、1〜3月期にやや足踏みをした感はあるものの、4〜6月期には反動的に大きく伸びている(図表2)。この趨勢を考慮すると、4〜6月期GDP統計の住宅投資マイナスには違和感があり、7〜9月期は反動的に大きな伸びとなろう。
 なお、公共投資については、昨年度末の大型補正予算の執行もあって、公共機関からの建設工事受注額が4〜6月期に前年比+18.7%と大きくのびていることから見て、当分の間増勢は維持されると見られる(図表2)。

【設備投資は緩やかな増加に転じたのではないか】
 設備投資については、4〜6月期の機械への投資の一致指標である資本財(除輸送機械)総供給(国産品の国内向け出荷+輸入)が前期比+3.3%と前期(同+2.1%)に続いて増加していること(図表2)から見て、実質GDP統計における4〜6月期までの6四半期連続減少には違和感を禁じ得ない。
 設備投資は、法人企業統計を反映した2次速報値でプラスに修正されるか、あるいは7〜9月期以降、急速な回復に転じるであろう。4〜6月期の機械受注(民需、除船舶・電力)が前期比+6.8%と5四半期振りに増加したこと、「6月短観」を始めとする各種の設備投資計画調査で、2013年度の計画が前年比増加となっていることなども、その可能性を示唆している。

【経常収支はジリジリと改善】
 6月の経常収支(季調済み、以下同じ)は6462億円の黒字(前月比+3.7%)、4〜6月期は21,221億円の黒字(前期比+171.3%)と1〜3月期を底に黒字額は大きく改善している。これは、貿易収支の赤字が本年2月をピークとして、輸出の微増、輸入の微減から徐々に縮小していること、所得収支の黒字が本年に入って増加傾向を示していることなどによるものである。
 外需が成長の足を引っ張る局面は、終わったと見てよいであろう。

【国内企業物価と消費者物価の上昇はデフレ脱却の前兆となりうるか】
 このところ、物価動向にデフレを脱する兆しのような動きが少しずつ出てきた。
 国内企業物価は、昨年12月以降前月比上昇が続いており、7月も前月比+0.5%上昇して前年同月比では+2.2%となった。
 これは需給基調の好転によるよりも、円安傾向に伴い円ベースの輸出入物価が上昇していることの影響が大きいと見られる。因みに7月の輸入物価は円ベースで前年同月比+18.5%も上昇しており、国内物価のコスト・プッシュ要因になっている。また7月の輸出物価も円ベースで前年同月比+14.3%上昇しているが、これは円安に伴う円手取り額減少を防ぐ値上げによるものであろう。
 他方、全国消費者物価(除生鮮食品)は5月に前年比0.0%となったあと、6月には同+0.4%と14か月振りのプラスとなった。
 国内企業物価上昇の波及による面があると思われるが、消費者物価の大半を占めるサービス料金は賃金動向を密接に反映するだけに、賃金の上昇傾向がはっきりしない現段階で、デフレを脱却したかどうかを判定するのは、早計であろう。