2013年6月版
家計消費、住宅投資、公共投資中心の回復続く、雇用・賃金に立ち直りの兆し

【鉱工業生産は緩やかな回復傾向】
 1〜3月期の実質GDPは、前期比年率+3.5%(寄与度は内需+2.0%、外需+1.5%)の増加となったが、4月に入ってからも、引き続き家計消費、住宅投資、公共投資を中心に内需が確りしており、雇用・賃金の面にもようやく立ち直りの兆しが出てきたように見受けられる。
 4月の鉱工業生産は前月比+1.7%と5か月連続の増加となった。他方、製造業生産予測調査によると、5月は同0.0%の横這い、6月は−1.4%の低下である。鉱工業生産の実績が仮に5月と6月の同予測通りになったとすると、4〜6月期は前期比+2.0%の増加と2四半期連続の増加となる(図表1)。
 4月までの大幅増産と5、6月の足踏みは、業種別に見ると輸送機械の動きに左右されている面が大きい。輸送機械の4月生産は前月比+11.8%、1〜3月平均比+8.8%の大幅増加、5月と6月の生産予測は前月比減少となった。これは、輸送機械の中心である乗用車生産の不規則変動によるものと推察される。

【国産品の国内向け出荷は資本財、耐久消費財を中心に確り】
 4月の鉱工業出荷は、前月比+1.1%と3か月連続の増加となったが、これを国内向けと輸出向けに分けると、国内向けが同+2.6%と3か月連続で増加しているのに対し、輸出向けは同−3.5%と6か月振りの減少となった。4月に輸出が減少した主な品目は、一般機械、電子部品・デバイス、電気機械、情報通信機械などの資本財(除輸送機械)である。対中国、EU向けの不振が主因と見られる。
 次に、国産品の国内向け出荷に輸入を加えた鉱工業製品の国内向け総供給を見ると、4月は国産品が上記のように伸びているため、輸入が前月比−1.0%と3か月振りに減少したにも拘らず、全体は同+1.8%と3か月連続の増加となった。国内需要の根強さを窺わせる。品目別には精密機械、輸送機械などの資本財(同+7.8%)と耐久消費財(同+8.8%)の伸びが目立つ。

【可処分所得は立ち直り傾向】
 国内需要の動向を見ると、GDP統計の実質家計消費は1〜3月期に前期比+0.9%(年率+3.7%)と大きく伸びたあと、4月の家計調査(全世帯)では前月比−4.6%の減少、前年同月比+1.5%の増加となった。他方、4月の小売業販売額は前年比−0.1%の減少となったが、減少幅は1〜3月平均(同−1.2%減)よりもかなり減少し、季調済み前月(期)比では増加したのではないかと思われる。
 4月の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比+0.5%と2か月連続して前年を上回った(図表2)。

【雇用と賃金に好転の兆し】
 背後の雇用・賃金動向を見ると、4月の雇用は「労調」の就業者が前月比+0.1%、雇用者が同+0.4%、「毎勤」の常用雇用者が同+0.2%といずれも前月より増加した。前年に比べると、それぞれ+0.6%、+0.1%、+0.6%といずれも前年を上回っている。このような雇用状況の緩やかな立ち直りを反映して、このところ労働力化率もジリジリと上昇して労働力人口が増えているため、就業者の増加にも拘らず完全失業者も増加し、完全失業率は4.1%と前月比横這いとなった(図表2)。ただし、一般職業紹介所における有効求人倍率と新規求人倍率は、4月にそれぞれ0.89、1.40と前月(0.86と1.39)よりも上昇した。
 他方、4月の実質賃金(全産業)は、前年比+1.0%の上昇となり、前年比上昇幅は1月から月を追って拡大している(図表2)。これは所定外労働時間の増加と賞与など一時金の増加によるもので、所定内給与は増加していない。

【住宅投資と公共投資の増勢続く】
 次に投資動向を見ると、先月の<月例景気見通し>(2013年5月版)で予測した通り、1〜3月期は住宅投資と公共投資が増加し、設備投資が減少した(下表参照)。


 4月に入ってからも、住宅投資と公共投資の増勢は続いていると見られる。4月の住宅着工戸数(季調済み、年率)は、939千戸と1〜3月平均の904千戸を更に上回った。また4月の公共工事受注額(大手50社ベース)は、前年比+11.5%と大きく伸びている(図表2)。

【資本財(除く輸送機械)の国内向け総供給に立ち直りの気配】
 問題は今後の設備投資の動向である。3月調査「日銀短観」の2013年度設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く、製造業+非製造業+金融機関)は、前年比−0.2%の減少であった。これは期初計画なので、中小企業を中心に今後上方修正される可能性もあるが、アベノミクスの「異次元金融緩和」が打ち出された割には、慎重である。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、1〜3月期に前期比−0.0%と4四半期連続して減少し(図表2)、4〜6月期の見通しも同−1.5%となっている。
 足許の機械に対する設備投資の動向を示す資本財(除輸送機械)の国内向け総供給(国産品の国内向け出荷と輸入の合計)の動向を見ると、1〜3月期には前期比+2.1%と3四半期振りのプラスとなったあと、4月は前月比+3.6%、1〜3月平均比+4.2%と増加を続けている(図表2)。これは、上記の機械受注の動きとは異なっているので、4〜6月期、および2013年度の設備投資動向については、今後注意深く見ていく必要がある。これはアベノミクスの評価とも絡む重要な問題である。

【GDPベースの純輸出は1〜3月期に増加】
 最後に外需の動向を見ると、このところ実質GDPベースの外需(純輸出)の動きと、通関ベースの実質貿易収支の動きが喰い違っているので、予測が難しい。1〜3月期は下表の通り、実質GDPベースでは前期比プラス、通関の数量ベースでは同マイナスであった。



 4月の通関ベースの輸出(名目値)は季調済み前月比で+0.0%、輸入(同)は同−2.4%であったので、名目値の貿易収支は好転した。しかし、4月の鉱工業製品の出荷(実質値)では、輸出が前月比−3.5%、輸入は同−1.0%で実質ベースの貿易収支は悪化した。
 普通であれば、昨年11月以来の大幅円安に伴い、数量ベースの貿易収支は好転し、金額ベースの貿易収支は交易条件の悪化で好転が遅れる筈である。今後どのような展開になるか、注意深く見ていきたい。