2013年4月版
アベノミクスにより景気回復が加速されている気配はない

【生産の回復テンポはこれ迄の予測調査より緩やか】
 市場の期待に対するアベノミクスの効果で、円安と株高が大きく進んでいるが、今のところ実体経済に対する影響は円安に伴う輸出立ち直りの気配など一部にとどまっており、景気回復のテンポは引き続き緩やかである。
 2月の鉱工業生産は、製造工業生産予測調査の前月比+5.3%とは裏腹に、同−0.1%の微減と3か月振りの減少となった。3月と4月の製造工業生産予測調査は、夫々同+1.0%、同+0.6%と再び上昇傾向に戻るが、そのテンポは前月までの予測に比し大きく鈍化している(図表1)。
 予測調査の上昇と異なって実績が低下した品目は、中国向けを中心とする電子部品・デバイスと精密機械である。自動車や一般機械は、予測通り上昇傾向を続けている。

【1〜2月の鉱工業出荷は内外需共に10~12月比増加】
 2月の鉱工業出荷は、生産とは逆に、前月比+0.8%の増加となったが、これは国内向けが同+0.9%とかなりの増加となり、輸出も同+0.3%と円安の効果もあって4か月連続の増加となったためである。この結果、1~2月の平均出荷は、10~12月平均比+2.4%の増加となった。品目別には、自動車の国内向け出荷が5か月連続、輸出が4か月連続して夫々増加しているのが目立つ。
 国産品の国内向け出荷と輸入を合計した2月の国内向け総供給は、上記の国内向け出荷増加に加え、輸入が前月比+4.9%と大きく伸びたため、全体で同+0.8%の増加となった。このため、1〜2月を平均した国内向け総供給は、10〜12月平均比+2.6%の増加となった。
 なお、1~2月の輸出平均は10〜12月平均比+5.8%の増加となり、1〜2月の輸入平均の10〜12月平均比+2.6%を上回り、1〜2月の鉱工業製品の貿易収支は10〜12月期に比して好転している。

【家計消費は底固い動き】
 次に需要サイドから見ると、まず家計消費では、2月の「家計調査」の実質消費支出(全世帯、季調済)が前月比+2.2%の大幅増加となり、消費水準指数の前年比も+4.4%と上昇幅を拡大した(図表2)。
 消費支出の内訳で増加が目立つのは、自動車・関連用品の購入と、教育・教養娯楽関係の支出である。
 「販売統計」の側から見ると、2月の乗用車新車登録台数(季調済)は年率4,799千台と、前月比に比べれば−0.3%の微減となったが、10〜12月平均に比べれば+17.7%上回っている。他方2月の小売販売額は前年比−2.3%となり、消費回復の中心が自動車とサービスに向かっていることを窺わせる。

【雇用の改善テンポは遅く賃金は横這い】
 2月の実質可処分所得(勤労者世帯)は、前年比−1.7%の減少となり(図表3)、消費性向は前年に比し高まっている。
 雇用動向を見ると、2月の「労調」の就業者と雇用者、「毎勤」の常用雇用は、季調済前月比で、夫々+0.1%、+0.2%、+0.1%と僅かに増加した。前年比では、夫々+0.3%、+0.5%、+0.3%といずれも前年水準を上回っている。雇用は極めて緩やかながら増加しているが、完全失業率を見ると、2月は4.3%と前月比0.1%ポイント高まり、昨年6月以来の4.2〜4.3%の水準で引き続き一高一低を繰り返している(図表2)。2月の有効求人倍率も、0.85と前月比横這いであった。
 このように遅々とした雇用改善を背景に、2月の実質賃金は前年と同水準にとどまった。2年間程続いている実質賃金の下落傾向(図表2)に底打ちの気配が出てきたのかどうかは、もう少し見極める必要があろう。

【設備投資に立ち直りの兆しなし】
 次に投資動向を見ると、足許の機械に対する投資を示す資本財総供給(輸送機械を除く・国産品国内向け出荷と輸入の合計)は2月に前月比+3.1%の増加となり、1〜2月平均の10〜12月平均比も+1.2%の微増となった。実質GDP統計で4四半期連続して下落している設備投資に、1〜3月期に下げ止まりの気配が出ている。
 しかし、3月調査「日銀短観」で本年度設備投資計画が前年比−0.2%にとどまっていること(このHPの<最新コメント>“3月調査「日銀短観」とアベノミクス―企業の経済回復見通しのテンポは緩やか、投資行動は意外と慎重、金融機関にはやや動意”(H25.4.1)参照)からも窺われるように、企業の投資意欲がアベノミクスで高まっているとは見られない。因みに先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、10〜12月期に前期比+2.0%と微増したあと、1月は前月比−13.1%と大きく下落している。

【住宅投資と公共投資の増勢続く】
 実質GDP統計で3四半期連続して増加している住宅投資は、1〜3月期も引き続き増加しそうである。2月の新設住宅着工戸数は前月比+9.4%の大幅増加となり、1〜2月平均は10〜12月平均比−1.6%と高水準でほぼ横這いである(図表2)。
 また実質GDP統計で4四半期連続して増加している公共投資も引き続き増勢を保っている。公共機関からの建設工事受注額(大手50社)は、2月に前年比+11.6%の増加、1〜2月平均で同+6.4%の増加となっている(図表2)。昨年度末に成立した13兆円の12年度補正予算が執行される4〜6月期と7〜9月期にも、この増勢は続くと見られる。

【成長に対する外需のマイナス寄与度は止まるか】
 最後に外需(純輸出)の動向を見ると、前述のように2月の鉱工業製品の貿易収支は好転したが、2月の通関ベース(季調済)では、輸出が前月比+1.3%、輸入が同+6.8%となり貿易収支は悪化した。金額ベースでは、火力発電所の稼働増加に伴って輸入が増加している原油とLNGの価格上昇が大きく響き、貿易収支の好転は見られない。
 国際収支ベース(季調済)で見ると、1月の経常収支の黒字は3646億円と10〜12月平均の黒字(2123億円)を大きく上回っている。悪化を続けてきた経常収支は、10〜12月期に底を打ち、1〜3月期に好転する可能性がある。主因は輸出の緩やかな回復である。

【1〜3月期は10〜12月期よりは高目のプラス成長か】
 以上を総括すると、1〜3月期の実質GDPは、国内需要が家計消費、住宅投資、公共投資を中心に前期比増加率を高め、外需(純輸出)のマイナス寄与度が縮小ないしプラス寄与度に転じるため、前期(年率+0.2%)よりはやや高目のプラス成長となる公算が高いと見られる(図表3)。