2010年11月版
7〜9月期の内需堅調・輸出頭打ちのあと年度下期は内外需共不透明要素が多い

【生産は10月まで5か月連続で減少したあと底打ちの予測】
 海外経済の成長鈍化から輸出が頭打ちとなってきたため、鉱工業生産は弱含みとなっているが、家計消費、設備投資、住宅投資を中心に9月までの国内需要は確りしている。来週15日(月)に公表される7〜9月期の実質GDPは、純輸出の横這いないし減少を内需の増加が補う形で、4〜6月期(年率+1.5%成長)と同程度かやや上回るプラス成長となる見込みである。
 まず鉱工業生産と出荷からみると、9月は前月比それぞれ−1.9%、−0.7%と、4(生産)ないし3(出荷)か月連続の減少となった。この結果、7〜9月期の生産と出荷は、前期比それぞれ−1.9%、−1.3%と生産は6四半期振りの減少、出荷は5四半期振りに2四半期連続の減少となった。
 製造業生産予測指数は、10月に同−3.6%と更に減少したあと、11月になって同+1.7%と6か月振りに上昇に転じる形となっている(図表1)。これは主として、下落を主導してきた電子部品・デバイスと乗用車の生産が、11月に増加に転じるためである。

【出荷の落ち込みは輸出減少による面が大きく内需の減少は小幅】
 7〜9月の鉱工業出荷の前期比−1.3%を国内向けと輸出に分けると、国内向けが同−1.1%の減少であるのに対し、輸出は同−3.1%と減少幅が大きい。この国内向け出荷に輸入を加えた7〜9月の国内向け総供給は、輸入が同+2.5%の増加となったので、同−0.4%と国産の国内向け出荷の減少幅(上記の−1.1%)よりも小幅であった(下表参照)。
 このように、7〜9月期の鉱工業生産、出荷の減少は、輸出の減少(△3.1%)に負う面が大きく、国内需要の減少は小幅(△0.4%)であった。サービス需要を含めた7〜9月期の国内需要全体は、以下に述べるように増加したとみられる。



【7〜9月期の家計消費は政策効果と猛暑効果から確りした伸び】
 まず家計消費を「販売統計」によってみると、9月の小売販売額は前月比−3.0%の減少となったが、6月から8月までの伸びが高かったため、7〜9月期の前期比は+0.2%の増加となった。とくに7〜9月期の乗用車新車登録台数は同+3.8%、家電販売額は同+3.0%の大幅増加となった。
 乗用車については、9月上旬のエコカー補助金の打ち切り前の駆け込み需要が7、8月に大きかったこと、家電については4月からエコポイント対象商品が絞られたことに伴う4〜6月の減少(同−1.1%)の反動増と猛暑に伴うエアコンなど夏物商品の売上げが6〜8月に大幅に伸長したこと、によるものとみられる。
 「家計調査」の実質消費支出(全世帯)も、同じ理由から、9月は前月比−0.4%の微減となったものの、7〜9月期は前期比+2.1%の増加となった。
 これらから判断すると、7〜9月期の実質GDPベースの家計消費は、4〜6月期横這いのあと、再び大きく伸びて成長に寄与したとみられる。
 もっとも、9月にみられた政策効果の反動減や猛暑効果の終了の影響が10月以降にも尾を引くと、10〜12月期の家計消費が弱くなる恐れがある。

【雇用・賃金の立ち直りを反映して雇用者報酬は緩やかに増加】
 次に「家計調査」の実質可処分所得(勤労者世帯)の前年比は、9月に+1.6%、7〜9月に+0.5%と緩やかな増加を続けている(図表2)。これは、雇用と賃金の緩やかな回復を反映した動きである。
 9月の「毎勤」の常用雇用は、前月比−0.1%と微減したが、7〜9月の前期比は+0.3%の増加となった。9月の「労調」の雇用者は前年比+0.7%とやや大きく増加したため、7〜9月期も同+0.3%と6四半期振りに前年水準を上回るに至った(図表2)。就業者も9月は前年比+0.2%と実に32か月振りに前年水準を上回った。他方、9月の完全失業者は前年比−6.3%と4か月連続で前年水準を下回ったため、完全失業率は前月比0.1%ポイント低下して5.0%となった(図表2)。
 雇用の改善は、緩やかながら着実に進んでいる。
 この間、「毎勤」の実質賃金指数は、前年比+1.5%と9か月連続して前年水準を上回り、7〜9月期の前年比は+1.8%となった。
 このように、雇用と賃金の立ち直りはジリジリと進んでおり、7〜9月期のGDP統計の雇用者報酬も、5四半期連続して回復しているとみられる。

【7〜9月期の設備投資は着実に増加】
 投資動向に目を転じると、足許の機械投資を示す資本財(除輸送機械)の総供給指数(国産+輸入)は、9月の前月比が+5.3%(とくに輸入は+24.9%)、7〜9月の前期比が+3.7%と増加した(図表2)。GDPベースでも、設備投資は前期(+1.5%増)を上回る伸びとなるのではないか。
 先行きを示す7〜9月期の機械受注(民需、除船舶・電力・携帯電話)は、前期比+7.7%と大きく伸びた(図表2)。しかし、10〜12月期の受注見通し(民需、除船舶・電力)は、同−9.8%の減少となった。果たして実績がその通りになるか、その原因は何か、などはもう少し経たなければ判定できない。

【住宅投資は立ち直り、公共投資は減勢持続】
 新設住宅着工戸数は、9月も前月比+1.0%と4か月連続で増加し、7〜9月期は前期比+7.0%の伸びとなった(図表2)。
 実質GDP統計の住宅投資は、本年1〜3月期に前期比+0.3%の微増となったことを除くと、昨年1〜3月期以降減勢を辿っているが、最近の住宅着工統計の動きから判断すると、7〜9月期は久しぶりに小幅の増加となるかもしれない。
 他方、公共投資は、公共事業請負額の前年比が9月に−18.8%、7〜9月に−12.6%と落ち込んでいることから推し、昨年7〜9月期から4四半期続いたGDPベースの減少傾向(図表3)が、本年7〜9月期も続いているとみられる。

【7〜9月期の「純輸出」の成長寄与度はほぼゼロか】
 最後に外需の動向をみると、実質ベース(日銀推計)でみて、輸出は9月が前月比0.0%の横這い、7〜9月期が前期比−0.4%の微減、輸入は9月が−0.4%の微減、7〜9月期が+1.1%の増加となった。
 この結果、実質GDP統計の「純輸出」に対応する実質貿易収支は、9月が前月比+0.9%の微増、7〜9月期が−4.5%の減少となった。
 これまで5四半期にわたって成長を支えてきた「純輸出」(図表3)は、7〜9月期には成長に全く寄与しない可能性がある。

【7〜9月期プラス成長のあと年度下期がどうなるか】
 以上総括すると、7〜9月の実質GDPは、内需が家計消費と設備投資を中心に比較的堅調に推移した反面、「純輸出」の成長寄与度がほぼゼロになると予想される。
 その結果、内需の成長寄与度が4〜6月期(ゼロ)よりは大きく高まるものの、4〜6月期の「純輸出」の成長寄与度(+0.3%)がほとんど失われるため、7〜9月期の成長率は4〜6月期(年率+1.5%)並みか、若干上回る程度となる蓋然性が高い。
 問題は10〜12月期以降の本年度下期である。政策効果の息切れ、猛暑効果の反動などの影響がどの程度後を引くか、雇用・賃金の立ち直りに伴う雇用者報酬の回復が家計消費にどの程度響いてくるか、新興国を中心とする成長率の立ち直りが日本の輸出をどの程度支えるのか、などが鍵を握っている。10月以降の景気指標の公表につれて、これらの不透明な要素が徐々にはっきりしてこよう。