2010年1月版
アジア向け輸出の増加、家計の消費性向上昇、設備投資と住宅投資の底打ちがあるので、公共投資の急減は予測されるものの、緩やかな景気回復が続こう

【生産、出荷は12月以降前年を上回るに至るが、過去のピークに比べればなお2割低い水準】
 昨年末に公表された11月を中心とする景気指標から判断すると、日本経済は内外需揃って緩やかな足取りで回復を続けており、新年の株式市場の大発会では、株価が昨年中の最高値(8月)を更新して始まった。
 まず11月の鉱工業生産と出荷は、前月比それぞれ+2.6%、+0.9%と、9か月連続の増加となり、12月と1月の生産予測指標は、それぞれ+3.4%、+1.3%と引き続き上昇を続ける見込みである(図表1)。実績が予測通りになると、12月は前年同月比+7.0%、1月は同+20.6%と、リーマン・ショックで急落を始めた昨年10月以降、15か月振りに前年水準を上回ることになる。
 もっとも、これは前年の生産水準が急落しているためであり、昨年のピークである3月の水準に比べると、1月の予測指数はなお−20.6%の低水準にある(図表1)。ピークを更新するのは、本年の景気回復が順調であったとしても、年末から明年の前半あたりであろう。
  
【乗用車、デジタル家電を中心とする需要が内外需をリード】
 生産回復のテンポは、10月に一時鈍化したが、11月(実績)〜12月(予測)には再び加速したと見られる(図表1)。これは、乗用車と電子部品・デバイスの需要が環境対策の効果から内外需共に回復していることが響いている。
 国内の消費動向を見ると、エコ・カー減税、エコポイント制度などの影響で、11月も乗用車新車登録台数は前年比+24.7%、前月比+7.2%と大きく伸びた。また家電販売額も、10月に前年比+1.8%、前月比+7.7%の大幅な増加となったあと、11月はその反動で季調済み前月比−4.0%と7か月振りに減少したが、前年比は+0.6%の水準にある。
 11月の小売販売額全体は、前月比では+0.2%の増加となったが、前年比は−0.2%の微減となった。もっとも、11月の全国消費者物価(除く生鮮食品)が前年比−1.7%の下落となっているので、実質ベースの小売販売量は、前年をかなり上回っていると考えられる。

【可処分所得の裏付けのない実質消費の増加】
 このことは、家計統計にはっきりと現れている。11月の消費支出(全世帯)は、名目では前年比0.0%であるが、実質では同+2.2%の増加である。これで実質消費支出の前年比プラスは4か月続いている(図表2)。実質GDP統計の家計消費は、10〜12月期も着実に増加すると見られる。
 しかし、このような実質消費の増加は、実質可処分所得の増加に裏付けられている訳ではない。実質可処分所得(勤労者家計)は、この4か月間も前年比マイナスである(図表2)。エコ・カー減税、エコポイント制度などによって、家計は消費性向を高めて消費支出を増やしているとすれば、これは消費支出の先喰いであり、将来反動減が生じるリスクがある。

【雇用、賃金は低水準のままで改善傾向は見られない】
 このリスクは、雇用、賃金が回復してくれば低くなるが、その兆しはまだ見られない。「毎勤」によると、「決まって支給する給与」の前年比は、実質ベースで見ると、7〜11月と5か月連続して増えているが、「特別に支払われた給与」(賞与)が大きく下落しているため、11月の「給与総額」の前年比は、実質ベースでも−0.6%と3か月振りに前年水準を下回った(図表2)。12月は賞与減額の影響がもっと強く出るので、更にマイナス幅が拡大すると見られる。
 11月の雇用は、「毎勤」の常用雇用者、「労調」の就業者と雇用者、のいずれも前年を下回る水準のまま、前月比は横這いであった。しかし完全失業者が前月比で+1.8%の増加となったため、完全失業率は5.2%と4か月振りに0.1%ポイントの上昇となった。
 総じて見れば、雇用と賃金は低水準に落ちたところで悪化は止まっているが、はっきりした改善傾向は現れていない。

【設備投資は底を打ち緩やかな増加に転じる見込み】
 国内の投資動向に目を転じると、足許の機械に対する設備投資と機械輸出を示す一般資本財出荷は、11月に前年比−19.6%と前月(−29.8%)より減少幅を大きく縮小し(図表2)、前月比は+6.5%と前月減少(同−1.6%)の反動もあってやや大きく増加した。10〜11月平均の7〜9月平均比も+8.3%の増加となっており、7〜9月期に8四半期振りの前期比プラスに転じた一般資本財出荷は、10〜12月期も回復傾向を保つと見られる。
 先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、10月に7〜9月平均比+2.1%となり、10〜12月期は6四半期振りに増加に転じる可能性が出ている(見通しは+1.0%)。
 設備投資は09年度下期に底を打ち、緩やかな増加に転じる蓋然性が高まってきた。

【住宅投資は下げ止まり、公共投資は減少傾向へ】
 11月の新設住宅着工戸数は、前年比−19.1%と9月以降3か月連続して前年比減少幅を縮めており(図表2)、前月比では3か月連続して増加し、1〜3月頃の水準に戻っている。09年1〜3月期から3四半期連続して減少した住宅投資も、09年度下期には底を打ちそうである。
 他方、公共工事請負額の前年比増加幅は急速に縮小し、11月は0.0%となった。これは新政権が09年度当初予算と第1次補正予算の公共事業などの一部執行停止により、7.3兆円の予算組替えを行った影響で、11月の国の工事請負額が前年比−21.4%のマイナスに転じたためである。
 7〜9月期に微減した公共投資は、10〜12月期以降明年度にかけて、減少傾向を辿るものと見られる。

【10〜12月期の実質貿易収支は大幅に改善する見込み】
 最後に外需の動向をみると、11月の通関輸出は前年比−6.2%と前月(−23.2%)やボトムの2月(−49.4%)に比べて大きく減少幅を縮小し、国・地域別ではアジア向けが遂に+4.7%(うち中国向けは+7.8%)の増加に転じた。他方、対米国は−7.9%、対EU向けは−15.9%の減少にとどまっている。
 日本銀行の推計によると、実質輸出は11月の前月比が+0.6%、10〜11月平均の7〜9月平均比が+7.7%のそれぞれ増加となり、実質輸入は11月の前月比が+4.8%、10〜11月平均の7〜9月平均比が+1.5%の増加となった。このため、10〜11月平均の実質貿易収支の黒字は、7〜9月平均比+36.8%の大幅増加となった。10〜12月期のGDPベースの「純輸出」は、プラス成長に大きく寄与すると見られる。

【消費の先喰い傾向に不安は残るが、10〜12月期は内外需揃って3四半期目のプラス成長】
 以上を総括すると、10〜12月期の実質GDP統計では、政策効果と消費者物価の下落に援けられて家計消費が伸び、7〜9月期の「2次速報」で増加から減少に予想外の下方修正をされた設備投資(図表3)は、再び増加となり、住宅投資も下げ止まり傾向を強めるものと見られる。他方、公共投資は、次第に下落傾向を強め始めるであろう。
 しかし、公共投資は、09年7〜9月期現在、GDPの3.8%を占めるに過ぎないので、GDPに対するマイナスの寄与度は小さい。10〜12月期の内需は、全体として成長に対してプラスの寄与をすると見られる。
 また外需の成長に対する寄与度も、10〜12月期には7〜9月期以上に大きくなる可能性が高い。
 このため、10〜12月期の成長率は、やや鈍化した7〜9月期(年率+1.3%)を上回ると思われる。
 本年上期の不安材料は、先喰いを続けている家計消費の反動減である。それが起きる前に賃金と雇用の回復が始まるかどうかが、鍵を握っている。