2007年10月版
国際金融面の動揺をよそに7〜9月期の国内景気は確りした足取りで拡大
―9月調査「日銀短観」を踏まえて―
【足踏みしていた鉱工業生産と出荷は8月以降再び上昇傾向へ】
8月以降、サブプライム・ローン問題に端を発した「質への逃避」で、日本を含む世界同時株安と急激な円高(「円安バブル」の崩壊)が発生したが、8月の日本の景気指標と9月調査の「日銀短観」には、その悪影響は出ていないようだ。日本の景気は緩やかながら着実な上昇を続けている。
まず、8月の鉱工業生産と出荷は、前月比夫々+3.4%、+4.3%の大幅上昇となった(図表1参照)。これは、7月に中越沖地震の影響で前月比夫々−7.2%(生産)、−8.9%(出荷)となった輸送機械工業(乗用車が中心)が、8月には前月比夫々+15.7%(生産)、+16.0%(出荷)と大幅な反動増となったことによる面が大きい。
しかし、鉱工業生産と出荷の7〜8月の平均をとってみても、4〜6月平均に比して夫々+2.1%(生産)、+1.7%(出荷)の増加であり、先行きを示す生産予測指数も、前月比で9月−0.8%のあと、10月は+4.1%の大幅上昇を予想しており、全体として上昇傾向の持続を示している。上昇をリードしている業種は、乗用車のほか、電子部品・デバイス、一般機械など設備投資と輸出に関連した業種である。
以上から判断して、今年の前半に足踏みしていた鉱工業生産と出荷は、8月以降、設備投資と輸出に支えられ、再び上昇傾向に転じたと見られる(図表1参照)。
【米国の成長減速に伴う輸出鈍化から先行き企業の売上げ拡大テンポは鈍化する見通し】
9月調査「日銀短観」の売上計画を見ると、全規模全産業の本年度の売上高合計は、大企業を中心に0.4%ポイント上方修正され、前年比+2.7%の増収となっている。企業は景気が年度下期も緩やかに上昇を続けると見ている。
しかしそのテンポは、全規模全産業の前年同期比増収率で見て、06年度上期+5.5%、同下期+4.2%の実績に対し、今後は07年度上期+3.3%、同下期+2.2%と次第に鈍化する見込みとなっている。主因は、大企業製造業の輸出の伸びが、前年同期比で、06年度上期+16.3%、同下期+13.9%の実績に対し、今後は07年度上期+8.1%、同下期+3.6%と大きく鈍化する予想となっているためである。
この背景には、世界景気の拡大テンポの鈍化見通しがあると見られる。アジアとEUの拡大テンポには、今のところまだ不安要素は少ないが、米国では住宅価格のバブル崩壊に伴う逆資産効果で消費が勢いを失い、少なくとも本年度下期の成長減速は避けられないと見られている。
【雇用の拡大持続に支えられて家計消費は底固い】
しかし、足許の景気指標は、前述の鉱工業生産、出荷の上昇傾向に加え、確りした動きを示すものが多い。
8月の雇用者(全産業)は前年比+1.1%と増加を続け、名目賃金(同)は同+0.1%と9か月振りに前年を上回った。名目消費支出(全世帯)は、猛暑に伴う夏物の動きもあって、前年比+1.4%の大幅な増加となった(以上、図表2参照)。
9月調査「日銀短観」の[雇用人員]判断DIを見ると、全規模全産業合計で、「不足超」幅は前回6月調査の8%ポイントから9月調査では9%ポイント、先行きは更に13%ポイントに拡大する見通しである。現実の6月末雇用者数も、同じベースで、前年比+2.3%の増加となった。
このような雇用増加に支えられ、家計消費は緩やかながら底固い増勢を保つものと見られる。
【7〜9月期以降の設備投資はプラスに戻り「短観」の本年度計画は前年度を上回る伸び】
足許の設備投資動向を示す8月の一般資本財出荷は、前年比+3.5%の増加となり(図表2参照)、7〜8月平均の4〜6月平均比も、+4.4%と4〜6月期の前期比(+1.1%)を上回るテンポで伸びている。「法人企業統計」のサンプル替えの歪みを反映して、4〜6月期のGDP統計で前期比マイナスとなった設備投資は、7〜9月期には再びプラスに戻り、4〜6月期に一時的にマイナスとなった成長率も再びプラスに戻ると見られる(図表3参照)。
設備投資の先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)も、7月には前年比+8.0%と6か月振りのプラスとなった(図表2参照)。
9月調査「日銀短観」の本年度設備投資計画(金融機関を含む全規模全産業、ソフトウェア投資を含み土地投資を除く)は、前年比+7.2%と前年度実績の同+5.1%を上回る伸びとなっている。
【公共投資の減少に加え住宅投資も一時的に落ち込む見込み】
このように、家計消費と設備投資に不安はないが、国内需要では住宅投資と公共投資が弱い。
8月の新設住宅着工戸数は、前年比−43.3%と、7月(同−23.4%)に引き続き大幅な減少となった(図表2参照)。これは、耐震偽装の再発防止のため、建築確認の審査を厳しくしたため、申請手控えや審査の長期化などの混乱が広がったためである。これらの混乱が収まれば、実勢に戻ると見られるが、GDPベースで2四半期連続して減少した住宅投資は、7〜9月期もマイナスを続ける可能性が高い。
他方、公共工事請負額は8月も前年比−5.1%と減少を続けており(図表2参照)、GDPベースの公共投資の下落トレンド(図表3参照)は続いていると見られる。
【内外需が揃い7〜9月期はかなりのプラス成長か】
4〜6月期に成長寄与度がゼロになった純輸出は(図表3参照)、7月、8月と再び拡大し始めた。
日本銀行の推計によると、8月の実質輸出は前月比+7.0%の大幅増加、実質輸入は同−2.6%の減少となったため、実質貿易収支は同+29.5%の著増を記録した。対米輸出の鈍化を、対アジア、EUの輸出増加がカバーしている。
実質貿易収支の7〜8月平均も、4〜6月平均比+15.0%の増加である。GDPベースの純輸出も、7〜9月期にはプラスに戻ると見られる。
以上の結果、7〜9月期の実質GDPは、個人消費と設備投資という内需の2本柱と外需の双方に支えられ、かなりのプラス成長に戻ると予想される。