2006年9月版
追加利上げが遠のく中、経済は設備投資に支えられて順調に拡大
【原油価格の一層の高騰と米国経済の急激な減速の懸念が共に後退】
日本経済の前途に横たわる国際的リスクに、やや緩和の気配が出てきた。
中東の地政学的リスクを背景に高騰していた国際原油市況が、イスラエル・ヒズボラ紛争の一応の停戦で頭を打ち、少し下落している。また4〜6月期の年率成長率が、前期の+5.6%から一気に+2.5%に減速した米国経済では、景気後退の懸念が出ていたが、4〜6月期の改訂値は+2.9%に上方修正されたため、+3%弱の持続可能な成長軌道へ軟着陸するのではないかという期待が強まっている。
原油市況の一層の高騰と米国経済の景気後退は、本年度下期の日本の輸出環境を悪化させ、日本の成長減速を招く可能性が高いと見られていたが、このリスクはやや後退したようだ。
このため、米国と日本の株価は、8月以降少し持ち直し気味となっている。
【消費者物価の基準年改訂に伴い年内追加利上げの予想が後退、長期金利は低下】
他方、国内では、新たに05年を基準とする消費者物価指数が発表された(従来は00年基準)。基準年を改めると、値下がりしている新製品のウェイトが高まり、高止まりしている旧製品のウェイトが低下するので、旧基準に比して物価指数の水準は下がるのが普通である(いわゆる「パーシェ効果」)。
今回は、全国消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比が、旧基準の+0.6%から、新基準では+0.2%に下がった。また新基準では、前年比がゼロ%以上に定着したのは5月以降で、まだ3か月しかたっていない。
このため市場では、デフレ脱却の確認は遅れ、年内の追加利上げの可能性は無くなったという見方が増え、長期市場金利(10年物国債流通利回り)は、6月以降の1.9%台から新指数発表後は1.6%台に低下している。
全国消費者物価(除く生鮮食品)の前年比(%)
06年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月
00年基準 0.5 0.5 0.5 0.5 0.6 0.6
05年基準 −0.1 0.0 0.1 −0.1 0.0 0.2 0.2
【鉱工業生産、出荷の拡大傾向続く】
国内経済は引続き順調な拡大を続けている。
7月の鉱工業生産は、予測(前月比+2.2%増)に反し、同−0.9%の下落となったが、これは一般機械(専用機など)、輸送機械(鉄道車両など)、電気機械(携帯電話など)の一時的減産によるもので、8月の予測指数は輸送機械、一般機械などの反動増を中心に、同+4.2%の大幅上昇が見込まれている。9月の予測指数は同−1.4%と再び下落の予想となっているが、図表1に見られるように、水準としては大きく高まっている。
因みに、実績が予想指数通りとなれば、7〜9月期は前期比+2.3%増と1〜3月期(同+0.6%増)、4〜6月期(同+0.9%増)に比して上昇は加速している。実際には実績が予想を下回ると見られるが、その場合でも生産の上昇傾向は崩れないであろう。
一時ミニ調整が心配された電子部品・デバイスは、出荷が6月(前月比+1.3%増)、7月(同+5.3%増)と大きく伸びており、8月と9月の生産予測指数では更に拡大が続く計画となっている。7月末の在庫率は前年比+9.1%増とやや高いが、季節調整済みの在庫率を見ると、5月で上昇は止まり、6月と7月は横這いである。生産活動全体に響くようなIT部品の調整は、起こらないのではないか。
【民間消費は7月の長雨に祟られたが所得の伸びは順調】
国内需要を見ると、4〜6月期に実質GDPベースで前期比+0.5%増となった民間消費は、長雨にたたられて夏物消費が動かず、7月は少し弱かったようである。小売業販売額と新車登録台数の前年比は、図表2に見るように、いずれもマイナス幅を拡大した。家計調査による7月の全世帯消費支出(季節調整済み)は、4〜6月平均比−1.8%の減少となった。
しかし、雇用者数と名目賃金の回復傾向は続いており(図表2参照)、家計調査の勤労者世帯・可処分所得は、7月に前年比+6.1%の高い伸びとなっている。一転して猛暑となった8月には、夏物家電やレジャーへの支出が増えたのではないか。
【設備投資の伸びは高まり2桁に達する勢い】
実質GDPベースの設備投資は、図表3に見られるように、本年に入って1〜3月期は前期比+3.3%増、4〜6月期は同+3.8%増と加速している。本日発表された4〜6月期の「法人企業統計」によると、設備投資(名目)は前期比+5.7%増、前年比+16.6%増となっているので、4〜6月期GDPの第2次速報では設備投資が上方修正される可能性が高い。7月の一般資本財出荷も、前年比+10.9%増と6月(同+11.4%増)に続いて2桁の伸びを続けている(図表2参照)。
先行指数である機械受注(民需、除く船舶・電力)は、4〜6月期に前期比+8.9%増、前年比(図表2参照)+15.4%増と大きく伸び率を高めた。6〜9か月の先行指数であることから判断して、本年後の設備投資は前年度(実質+7.5%増)を上回る2桁の伸びとなり、持続的成長を支えるものと見られる。
【7〜9月期は設備投資・民間消費と並び純輸出も成長に寄与する可能性】
民間消費、設備投資と並んで景気を支えている純輸出は、輸入の伸びが高いため、1〜3月期、4〜6月期とほぼ横這いとなった(図表3参照)。しかし、7月の通関ベースでは輸入の伸びが前月比で低下し、輸出の伸びは逆に高まっている。国際原油市況が頭を打ったため、原油価格上昇に伴う原油輸入量と輸入額の急激な伸びは峠を越え、伸び率は量・金額共に低下し始めている。7〜9月期のGDPベースの純輸出は、再び成長にプラスの寄与をすると見られる。
輸出の伸び率鈍化が心配されている本年度下期については、冒頭に述べたように、ややそのリスクが後退している。他方、国内需要では、既に見たように設備投資の伸びが高まっており、雇用・賃金の緩やかな回復も続いている。
7〜9月期もプラス成長が続き、06年度の成長率は、下期に輸出鈍化で成長率が少し下がったとしても、+2.5〜+3.0%程度には達するのではないか。企業の増収・増益も続き、既にバブル期のピークを上回っている売上高経常利益率は、更に小幅の上昇となるのではないか。