2006年8月版

ゼロ金利解除後も設備投資と輸出を中心に着実な拡大基調

【日本のゼロ金利終了、米国の利上げ打止め観測で円ドル相場と日米株価に変化】
   前月の<月例景気見通し>(2006年7月版)「ゼロ金利政策終了の条件は揃った」で主張した通り、日本銀行は7月14日の政策委員会・金融政策決定会合で、操作目標のコールレート(無担、オーバーナイト物)をゼロ%から0.25%へ引上げ、ゼロ金利政策を終結させた。コールレートの上限を画する基準貸付利率(公定歩合)も、これに合わせて0.1%から0.4%へ引き上げられた。
   他方、米国では4〜6月期の前期比成長率が、年率+2.5%と前期の同+5.6%から大きく減速した。この結果利上げ打止め観測が強まり、日本に二つの影響が出ている。一つは、日米金利差はこれ以上拡大せず、むしろ縮小に向かうという予想が出始め、円高ドル安傾向が兆している。もう一つは、利上げの行過ぎによる景気後退の懸念が薄れ、米国の株価が反発し、つれて日本の株価も5月以来3か月に及んだ調整局面を脱する気配が出ている。

【鉱工業生産は緩やかな上昇からやや加速する気配】
   もともと、5月以来の円安・株安傾向は、米国経済の影響によるところが大きく、日本経済のファンダメンタルズからは説明しにくい動きであった。しかし、ここで米国経済の先行きに関する不透明要因が後退したので、本来の日本経済の姿に海外投資家の目が向いてくるのではないか。
   その日本経済の基調は、引続き着実な拡大傾向を続けている。
   6月の鉱工業生産は、前月比+1.9%とやや大幅な増加となったが、予測指数によれば更に7月は同+2.2%、8月は同+3.7%と一段と大幅に上昇する形になっている。仮に予測通りになるとすれば、前年同月比上昇率は、+11.0%とバブル崩壊後経験したことのない2桁の伸び率になる。実際には実績が予測を下回る可能性が高いが、それでも6〜8月の3か月間にある程度大幅な上昇を続けると、図表1から分かるように、生産の上昇トレンドはやや加速する形となる。

【生産上昇を牽引する設備投資】
   6月以降の生産上昇を牽引している業種は、自動車、一般機械、電気機械、情報通信機械など設備投資関連と輸出関連の業種である。
   電子部品・デバイス工業の生産は、4〜6月期に前期比−1.7%減と軽い調整局面を迎えていたが、6月に在庫率上昇は頭を打ち、7月と8月の生産は再び上昇に転じる計画となっている。
   確かに設備投資の動きは確りしている。6月の一般資本財出荷は前月比+4.0%増、前年同月比+10.9%増の大幅な伸びとなった。4〜6月期を括って見ても、前期比+9.6%増、前年同月比+7.5%増の大幅上昇である(図表2参照)。
   先行きを示す機械受注(民需、除船舶・電力)も、4月は前年比+12.2%増、5月は同+15.8%増の大幅な伸びとなった(図表2)。4〜5月平均の1〜3月平均比は、+6.3%の上昇である。
   6月調査「日銀短観」の設備投資計画の通り、本年度の設備投資の伸びは、前年(05年度)の伸びを上回る勢いである。

【輸出は資本財を中心に好調を持続】
   一般資本財出荷は、設備投資のほか、資本財輸出も反映している。
   前述ように、米国経済は4〜6月期に減速したが、主因は住宅投資の減少と個人消費の伸び率鈍化であり、設備投資は引続き強い。これが日本の資本財輸出好調の一因である。
   4〜6月期の通関ベースの輸出入をもとに、日本銀行が推計した実質輸出入をみると、実質輸出は前期比+1.4%増、実質輸入は同+0.2%増と輸出の伸びが輸入の伸びを上回っており、実質GDPベースの純輸出に対応する実質貿易収支は、引続き拡大している(図表2参照)。
   輸入原油の値上がりで、名目値でみた貿易収支はやや悪化しているが、実質GDPベースの実質純輸出は、いまのところ成長を牽引している(図表3参照)。しかし、先行きについては、米国経済の動向次第である。

【成長減速、インフレ持続の米国経済】
   17回に及ぶ利上げで、米国のFFレート(日本のコールレートに相当)は1.0%から5.25%まで上昇したが、これに伴う住宅ローン金利引上げの影響で住宅投資は減少に転じ、住宅価格の上昇も頭打ちの気配を見せている。これが逆資産効果を通じ、消費態度にブレーキを掛け始めている。また個人消費はガソリン価格の高騰によっても打撃を受けている。
   このため、8月8日の利上げは打止めになるのではないかという観測が強まっている。それが前述のように株価を反発させているが、果して下期から来年まで展望した場合にはどうなるであろうか。成長減速と高インフレというスタグフレーション的傾向が続けば、当然景気には更なる悪影響が出て来る。設備投資もいつ迄堅調でいられるか。
   6月調査「日銀短観」によると、日本の企業は年度下期に輸出の減少を見込んでいる。現在は輸出が日本経済の拡大に寄与しているが、下期以降はどうなるか。米国経済の減速とインフレの兼ね合い、中東の地政学的リスクを背景とする原油高騰の行方などが今後の不確定要因として注目される。

【非製造業の雇用改善が顕著】
   長梅雨で夏物の動きが鈍く、消費は引続き冴えない。4〜6月期の小売業販売額は前年比−0.1%減となった(図表2参照)。しかし雇用情勢の好転は続いており、消費のポテンシャルは確りしていると見られる。
   6月の有効求人倍率は1.08倍と求人超過の状態でジリジリと上昇している。完全失業率は6月に4.2%となり、前月より0.2%ポイント悪化したが、これは自営業主や家族従業員の形をとっていた潜在失業者が職を求めて労働市場に出てきたためである。因みに6月の雇用者は、前年比101万人増(+1.9%)となったが(図表2参照)、自営業主と家族従業員が合計して前年比78万人減(−8.0%)となったため、就業者数全体としては20万人増(+0.3%)にとどまった。
   雇用者数の伸びが高いのは、サービス業(前年比49万人増、+6.5%)、運輸業(同20万人増、+6.7%)、卸小売業(同14万人増、+1.5%)などであり、製造業は同2万人増、+0.2%にとどまっている。また有効求人数では、サービス業のほか、医療・福祉、教育学習支援などの伸びが高い。
   総じて消費関連と経済活動全般に係わる業種で雇用の好転が大きい。

【4〜6月期の成長率は一時的にやや減速の可能性】
   以上を総合すると、4〜6月期の実質GDPは、民間消費の頭打ちから成長率は10〜12月期の年率+4.5%、1〜3月期の同+3.1%からやや下がるものの、設備投資が大きく伸び、純輸出も増えるので、潜在成長率並みの年率2%弱の着実なプラス成長を続けていると見られる(図表3参照)。
この間、住宅投資は引続き増加、公共投資は減少を続けているが(図表2の新設住宅着工と公共事業請負額参照)、両者の成長寄与度は互いに相殺し合っていると見られる。
   4〜6月期の消費頭打ちに伴なう成長減速は一時的で、7〜9月期には雇用・賃金(夏期ボーナス)の改善と設備投資の堅調で再び成長率は高まると見られる。10〜12月期以降の年度下期については、米国経済の動向次第で純輸出鈍化による成長減速が出て来る可能性もある。