2005年12月版
国内民間需要主導型回復の裾野が徐々に広がっている
【IT調整完了、設備投資堅調などから鉱工業生産はジリ高】
設備投資、個人消費、住宅投資など国内の民間需要にリードされた景気回復が、10〜12月期に入っても続いている。
10月の鉱工業生産の実績は、前月比+0.6%の増加と予測(同+2.4%)を大きく下回ったが、生産計画の後ずれに伴い11月の予測が前月比+1.9%から同+4.6%に大きく上方修正された。これも実績は予測を下回るであろうが、図表1に明らかなように、小幅とは言え生産は8月から連続してジリジリと上昇を続けており、在庫率は7月をピークに下っている。生産のジリ高には持続性がありそうである。
生産増加を主導している品目は、世界的に在庫調整が完了した電子部品・デバイス(10月の生産は前年同月比+13.5%)、設備投資好調を背景とする一般機械と電気機械、自動車輸出好調の輸送機械などである。
【設備投資の堅調から7〜9月期成長率は上方修正へ】
ここへ来て強さがやや目立ってきたのは、設備投資と住宅投資である。
7〜9月期の法人企業統計によると、設備投資の前年比増加率は、昨年10〜12月+3.5%、本年1〜3月+7.4%、4〜6月+7.3%に対して、7〜9月は+9.6%と増加率を高めている。季節調整済みの前期比増加率(ソフトウェアを除く)も、7〜9月は+4.1%と4〜6月の+2.1%よりも加速している。
まもなく発表になる7〜9月期GDPの2次速報値では、設備投資の前期比増加率が1次速報値の+0.7%から3%程度に上方修正され、それだけでGDP成長率も0.4%(年率1.6%)ポイント程上方修正されるので、成長率は1次速報値の+0.4%(年率+1.7%)から+0.8%(同+3.2%)程度に上方修正されるであろう(図表2参照)。
(注)12月9日に発表された2次速報によれば、設備投資は前期比+0.7%から同+1.6%へ、個人消費は同+0.3%から同+0.4%へそれぞれ上方修正されたが、在庫投資が成長率を前期比0.4%ポイント押下げる大幅な下方修正となったため、全体としての成長率は同−0.2%ポイントの下方修正となった。しかし、在庫投資の大幅減少は、10〜12月期以降の反動増加により成長率を大幅に押上げる要因であり、また設備投資と個人消費は上方修正されて国内民需の強さが確認される形となったので、基調としては国内民間需要主導型成長の基盤が強まっているという判断を変える必要はない。
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【製造業から非製造業へ、大企業から中堅・中小企業へ設備投資回復の輪が広がっている】
設備投資の一致指標である資本財(除輸送機械)の出荷を見ると(図表3参照)、10月の前年比は+5.2%と7〜9月平均の+1.9%よりも高まっている。10月の季調済み前月比も+6.8%増加し、7〜9月平均の水準を+0.8%上回った。
また先行指標である機械受注(民需、除船舶・電力)は、7〜9月に前年比+8.7%(図表3参照)、前期比+2.1%増加したあと、10〜12月の予測は前年比+10.2%、前期比+6.2%と加速する形になっている。
業種別、規模別の特色を見ると、最近の設備投資の加速は、製造業よりも非製造業、大企業(資本金10億円以上)よりも中堅(同1億円以上10億円未満)・中小(同1千万以上1億円未満)企業におおて顕著である。
設備投資の回復は、輸出関連企業から内需関連企業へ広がりながら、全体として加速している。
【不動産市況底入れの期待もあって住宅投資は回復傾向】
次に家計の動向では、設備投資ほどGDP全体への影響力は大きくないが、住宅投資が確かりしてきた。
実質GDP統計の住宅投資は、1〜3月期、4〜6月期と2四半期連続して前期比減少したあと、7〜9月期は+1.5%と前期比増加に転じた。
図表3に明らかなように、新設住宅着工戸数は、月々の振れを伴いながらも、四半期ごとにくくると、昨年10〜12月の前年比ゼロ%から本年7〜9月の同+4.9%まで期を追って増加率を高めており、10月も同+8.4%と大きく伸びた。
住宅投資優遇策の追加が無い中での増加傾向は、可処分所得の緩やかな回復のほか、不動産価格の底入れ期待を背景とした動きであろう。
【雇用と賃金の緩やかな回復が個人消費を支えている】
実質GDP統計の個人消費は、本年に入って緩やかに回復しているが(図表2参照)、10月の勤労者家計の消費水準指数も、前年比+1.6%(図表3参照)、季調済み前月比+1.0%の夫々増加となった。寒気の到来に伴って、11月以降の冬物個人消費も動き出しているようである。
勤労者所得を支える雇用と賃金の動向をみると、図表3に示した通り、10月の雇用者数と名目賃金の前年比は、7〜9月平均の前年比を上回って伸びている。勤労者所得の緩やかな回復と、それに支えられた個人消費と住宅投資の回復が続いているようだ。
労働市場では、家族従業員の形をとった潜在的失業者や求職を諦めていた人々が再び労働市場に出てくる傾向があるため、雇用者が増えて家族従業員が減り、就業者の増加を上回って失業者が増える傾向が出てきた。このため10月の完全失業率は4.5%と前月比0.3%ポイントも上昇した。
【株価上昇の持続性は財政・金融政策に大きく依存】
以上のように、本年に入って始まった国内民間需要に支えられた緩やかな回復は、非製造業や中堅・中小企業の設備投資意欲を徐々に刺激し始めた。また大企業・製造業以外の分野でも雇用と賃金の回復が始まり、緩やかな個人消費と住宅投資の上昇を招いている。
国内民間需要を出発点とするこのような好循環が見えてきたため、このところ輸出関連株のみならず、内需関連株を巻き込んだ全面的な株価の上昇が続いている。
06年度もこのような好循環が続くかどうかは、06年度予算の緊縮度合いと金融政策の運営によるところが大きい(このHPの<最新コメント>“量的緩和は解除、ゼロ金利政策は継続”参照)。
政策態度が厳しすぎて好循環持続の期待が裏切られれば、今回の回復の限界が見え始め、株価上昇には勢いがなくなってくる。そうでなければ、成長と株価上昇は来年度もまだ続く可能性が高い。