2001年10月版

‐ 本年度は増収増益から減収減益に下方修正 ‐

【生産の大幅続落で雇用と賃金は一段と悪化】
 年初来の生産下落傾向は、とどまる所を知らない(図表1参照)。8月の生産実績は+0.8%の増加となったが、9月の生産予測指数は−1.4%の大幅下落となるので、9月の実績が予測どおりであれば、7〜9月期の生産の平均は前期比−3.8%の大幅続落となる。これは3四半期連続の大幅下落であり、前年同期比では−10.6%の低水準に下がってしまった。
 この結果、8月の完全失業率は5.0%の既往最高水準で横這っており、常用雇用(事業規模5人以上ベース、製造業)は前年比−2.2%の減少となっている。失業を免れた人達の時間外労働も、前年比−5.3%と減少している(同、全産業)。これに伴なって所定外賃金も前年比−6.3%の減少となっているため、8月の一人当たり名目賃金(同)は、前年比−3.2%の水準まで下がっている。
 このような雇用の減少と所定外賃金の減少に伴なう所得減少や将来不安によって、個人消費は猛暑効果によってエアコンが売れたあと、8月から再び沈滞する可能性が高いと見られる。

【設備投資は電気機械を中心に大幅な下落へ】

 8月の一般資本財出荷は、図表2に示したように、前年比−13.4%まで落ち込んでいる。一般資本財出荷は設備投資と輸出の両方の動向を反映しているが、8月の実質輸出は前年比−12.4%の下落となっており、これだけで一般資本財出荷全体が13%も落ち込むことはないので、設備投資も同様の大幅落ち込みを示していると推測される。
 8月調査の日銀短観によると、本年度の全規模・全産業の設備投資計画は前年比−5.8%となっている。本年1〜3月期、4〜6月期と2期連結した設備投資の減少(図表3参照)は、7〜9月期に更に加速して下落している可能性がある。
 8月の日銀短観によって業種別の動向を見ると、本年度の設備投資計画が前年に比して大きく下落しているのは、電気機械の−7.6%である。これは5月調査比−11.9%の下方修正であり、IT関連業種の世界的な供給過剰と、これに伴なう設備計画の見直しが、この3ヶ月間に急速に進んだことを示している。

【米国同時多発テロの影響で業況は一段と悪化見通し】

 8月迄に、民需の二本柱である個人消費と設備投資がこのように弱くなっているところに、9月11日の米国における同時多発テロの影響が加わることになる。今のところ、9月の指標は乗用車新車登録台数しか出ていないが、この計数は5ヶ月ぶりに前年を下回り、−2.3%となった(図表2参照)。この減少に同時多発テロの影響があるのかどうかは、まだ分からない。10月以降の動向とあわせて判断すべきであろう。
 しかし、8月調査の日銀短観は、回答期間が8月29日から9月28日の間なので、多少は同時多発テロに伴なう先行き不安が織り込まれているかもしれない。その意味で、注目される点は、業況判断DI(全規模・全産業)の「悪い」超幅が、3ヶ月前の前回調査の−27%ポイントから今回は−36%ポイントと大きく悪化し、更に先行きも−40%ポイント迄悪化すると出ていることである。

【本年度は増収増益から減収減益の見込みに転落】

 また本年度の売上高や経常利益の見直しについても、前回調査の増収増益が今回は減収減益に変わった。これも大きな変化である。
 即ち、本年度の売上高(全規模・全産業)前年比は、前回調査の+0.7%の増収から8月調査の−0.6%の減収へ、1.3%ポイント下方修正された。また本年度の経常利益(同)の前年比も、前回調査の+1.1%の増益から8月調査の−9.2%の減益へ、10.3%ポイントの下方修正となった。
 減益幅の方が減収幅よりも大きいので、本年度の売上高経常利益率の見通し、前回調査の2.88%から8月調査の2.62%へ低下している。
 もっとも、この売上高経常利益率の水準は、98年度や99年度の水準よりも高い。これはリストラなどの経営改善によって損益分岐点が下がっているためであろう。最近、電気機械の大手企業が相次いで大量解雇を発表している。その雇用への悪影響は懸念されるが、経営の構造改革という点では着実に進んでいるのかも知れない。

【マクロ経済政策を知らない小泉政権】

 政府・与党は、このような景気後退に対し、これ迄のところ何のマクロ経済政策も打ち出していない。金融政策にもっと緩和しろと注文をつけるばかりだ。しかし、日本銀行もこれ以上手のうちようがあるまい。現在開かれている臨時国会において、11月の下旬頃には補正予算を提出する予定となっているが、その内容も規模も現段階では明らかになっていない。
 成長促進的、景気刺激的な構造改革、例えばIT関連や介護・医療関連の規制撤廃、民業を圧迫する特殊法人の廃止・民間売却、大都市圏の防災・環境維持・交通体系整備などの公共投資などを前倒しに実施することが望ましいが、今の政府・与党の動きは如何にも遅い。仮にそのような内容の補正予算が出てきたとしても、成立は12月初めとなり、地方自治体の補正予算を含めて実施に移されるのは、2月、3月のわずか2ヶ月程度であろう。
 景気循環に対して極めて鈍感な小泉政権というほかはないが、支持している国民がそれによって不況に苦しむのは、自業自得と言ってすまされる問題であろうか。国民はもっと小泉内閣のマクロ経済政策に目を向けるべきではないか。