日本はアジアの内需を取り込んで発展できる

―09年12月の日本の輸出が語るもの(H22.1.29)


【アジアと米欧のデカップリングを反映した日本の輸出】
 09年12月の日本の輸出は、前年比+12.1%と、08年9月以来15か月振りに前年水準を上回った。輸出先を国・地域別にみると、前月11月に既に前年を+4.7%上回っていた対アジア向けが、12月は同+31.2%と大きく前年水準を上回っており、これが全体を引き上げた。
 中でも、中国向けは同+42.8%、台湾向けは同+48.1%と大きく伸び、両国・地域の内需の強さを物語っている。
 これに対して、米国向けは同−7.6%、EU向けは同+1.4%にとどまっており、米欧先進国の内需が引き続き停滞していることを示している。
 アジアを中心とする新興国・途上国と米欧先進国の成長率がデカップリングし始めたことが、12月の日本の輸出にはっきりと現れている(このHPの<論文・講演>「経済人」“アジアと米欧のデカップリング”H22.1.14参照)。




【日本の輸出増加の3分の2はアジア向け】
 この傾向は、09年3月以来の輸出回復の過程にも、はっきりと現れている。
 日本の輸出の国・地域別シェアは、戦後最長景気の最終年である07年には、アジアが48.1%、米国とEUの合計が34.9%であったが、09年12月現在、アジアのシェアは56.0%へ上昇し、米国・EUのシェアは27.2%に低下している。
 このシェアの変動は、09年3月から12月までの輸出回復に対する両地域の寄与率をみると、一層鮮明である。この間の10か月の輸出増加に対する寄与率は、アジア向けが66.1%と全体の3分の2に達し、米国・EU向けは22.6%と4分の1以下となっている。



【対アジアは実質ベースの貿易黒字拡大に加え交易条件も好転】
 大きく伸びているアジア向け輸出の中身を調べてみると、12月の輸出金額の前年比増加率+31.2%の内訳は、輸出数量が同+33.0%増加している反面、輸出価格は同−1.4%と僅かに下落している。
 しかし輸入の側をみると、輸入金額の前年比−7.6%の内訳は、輸入数量が同+3.5%と増加しているのに対し、輸入価格は同−10.8%の下落である。
 つまり対アジア貿易では、数量ベースでも輸出の伸びが輸入の伸びを大きく上回っているうえ、輸入価格が輸出価格以上に下落し、日本の交易条件が好転している。つまり、数量ベースの輸出超過が実質GDP(国内総生産)を押し上げているだけではなく、交易条件の好転に伴う交易利得の拡大が、実質GDI(国内総所得)を増やし、日本国民の生活向上に寄与している。
 日本の対アジア輸出品目は、電子・電気機器、一般機械、輸送機械などが商品が差別化され、価格が安定した品目が中心であるのに対し、対アジア輸入品目は、原油・ガス・石炭などの鉱物性燃料、鉄鉱石などの原料品、食料品、機械や電子の部品などの汎用品(コモディティ)が中心で、世界不況に伴う国際市況の下落を反映して値下がりしているためである。

【アジアの内需と日本の内需を一体化して企業戦略を考えよ】
 この程IMFは、世界経済見通しの改訂値を発表した。これによると、2010年の成長率見通しは、中国+10.0%、インド+7.7%、ASEAN−5+4.7%、アジアNIEs+4.8%で、アジア全体では7%程度の成長率と予測されている。
 このような「アジアの内需」を取り込んで日本の企業が輸出入にとどまらず、直接投資(企業買収を含む)の拡大を通じてアジアで一段と活躍するならば、本年の日本経済は、IMF見通しの1.7%成長が示唆する以上の発展を遂げることも、決して夢ではない。
 グローバル化時代の今日、日本の経済戦略を「国内総生産(GDP)」対「対外取引」の次元でとらえ、輸出入の問題に矮小化して考えてはならない。そうではなくて、アジアの内需を日本の内需と同じようにとらえ、日本とアジアを一体化したグローバル市場における最適経営を考えるべきである。単に対アジアの貿易収支の黒字拡大が実質GDPの増加に寄与するだけではなく、アジア市場での企業活動の成果が対外所得収支の黒字拡大を通じて日本の実質GNI(国民総所得)を増加させ、日本の経済水準を高めるのである(このHPの<論文・講演>「新聞」“グローバル経済下の日本の戦略―『世界日報』2010年1月12日号、Viewpoint”参照)。