輸出と資源エネルギー価格の上昇で下期は減益、設備投資と雇用は引き続き堅調
―12月調査「日銀短観」(H19.12.14)
【業況判断は主として大企業の内需関連業種を中心に悪化】
本日(12/14)発表された07年12月調査「日銀短観」によると、大企業の「業況判断」DIが、前回9月調査に比べて、製造業、非製造業共に−4%ポイント悪化した。
業種別に見ると、製造業では主として内需関連業種が大きく悪化しており、輸出依存度の高い造船・重機等、自動車、精密機械の3業種は、逆に好転している。また非製造業では、対個人サービスと対事業所サービスの2業種が好転、情報サービスと飲食店・宿泊の2業種が横這いとなり、全体としては僅かに悪化する中で、国内需要の構造変化(情報サービス化)が進んでいることを窺わせる。
他方、中堅企業と中小企業の「業況判断」DIを見ると、製造業はいずれも9月調査比横這い、非製造業は両方共に9月調査比−2%ポイントの悪化となった。
このように、中堅・中小企業より大企業の方が悪化幅が大きく、また輸出関連業種より内需関連業種の方が悪化幅が大きいのが、12月調査の「業況判断」の特色である。
【輸出を中心に本年度下期の売上高は伸び率が鈍化】
「業況判断」の背後にある売上・収益計画を見ると、大企業全産業の売上高は、07年度上期に前年同期比+5.5%増と06年度下期の同+4.3%より伸び率を高めたが、07年度下期には同+3.5%と伸び率が落ちる計画となっている。
大企業製造業について内外需の内訳を見ると、国内需要は07年度上期の同+4.0%から下期の同+4.2%に僅かながら伸び率が高まる計画であるのに対して、輸出は上期の同+13.2%から同+5.2%に急激に伸び率が落ち、売上高全体の伸び率低下を引き起こしている。本年10〜12月期以降の米国の成長減速予想を、大きく見込んでいるのであろう。
なお、中堅・中小企業の売上計画も、下期は上期に比して売上高の伸びが鈍化する形となっている。
【本年度上期実績は前期並みの増益率、下期計画は減益の予想】
次に収益の動向を見ると、07年度上期の大企業全産業の経常利益は、前年同期比+7.3%と06年度下期の同+6.4%を上回る増益率となったが、これはもっぱら製造業加工業種の07年度上期経常利益が、同+13.7%と06年度下期の同+3.9%を大幅に上回る増益率となったためである。
製造業素材業種と非製造業の07年度上期の経常利益は、06年度下期に比して、いずれも増益率が低下している。また中堅・中小企業も、中小企業非製造業を除き、07年度上期の増益率が06年度下期に比して低下している。
更に、07年度下期の収益計画を見ると、大企業製造業の加工業種と中堅企業非製造業が前年同期に比べて僅かに増益になることを除けば、各規模各産業で前年同期比減益となり、全体(全規模全産業ベース)として、07年度上期の+5.4%増益から下期には−1.9%の減益に転落する計画となっている。
【収益悪化の一因は資源エネルギー価格上昇のコスト・プッシュ】
このような収益見通しの悪化は、二つの理由によるものと見られる。
一つは、前述した増収率(売上高の増加率)の下期低下予想である。
もう一つは、資源・エネルギー価格の上昇によるコスト・プッシュである。
「価格判断」DIを見ると、大企業と中小企業、製造業と非製造業を問わず、押しなべて「仕入れ価格判断」DIの「上昇」超幅が、9月調査の25〜52%ポイントから、今回調査で29〜57%ポイントに増加している。反面、「販売価格判断」DIの「上昇」超幅は、大企業でも9月調査の1〜2%ポイントから12月調査の3〜5%ポイントへと僅かに増加しただけで、中小企業に至っては、12月調査でも「下落」超にとどまっている。
資源・エネルギーの輸入価格上昇を、販売価格の上昇に転嫁しきれず、コスト・プッシュで収益が悪化している状況が見てとれる。
【本年度の設備投資は上期よりも下期の方が伸び率が高まる計画】
国内需要に関連して設備投資計画を見ると、全規模全産業の設備投資計画(含む土地投資)は、07年度上期に前年同期比+4.6%と06年度下期に比(同+7.9%)して伸び率が鈍化したものの、下期には再び同+8.7%と伸び率が高まる計画となっている。
確かにGDPベースでも、本年度上期の設備投資増加率は、前年度下期に比して鈍化した。しかし「短観」の計画によると、上期から下期に設備工事がずれ込んだため、下期の計画が大きく上方修正されている。
GDPベースの設備投資に近い「全産業+金融機関」の「ソフトウェアを含み土地投資と除く」ベースで見ると、本年度の設備投資計画は前年比+7.7%と前年度(同+7.8%増)並みである。
「生産・営業用設備判断」DIを見ると、全規模全産業で、前回も今回も過不足トントンの0%ポイントとなっているが、先行きの見通しは、−2%ポイントの「不足」超となっている。この判断が、前述した下期売上鈍化を織り込んだ上で、更に将来を見据えたものであれば、設備投資は今後も根強く増加し、内需を支えることとなろう。
【雇用は不足感の強まりを背景に着実に増加】
最後に、消費動向の背景を成す雇用の判断を見ると、全規模全産業の「雇用人員判断」DIは、前回9月調査の「不足」超9%ポイントから今回12月調査では「不足」超10%ポイント、更に今回調査の見通しでは「不足」超12%ポイントと、「不足」超幅をジリジリ拡大している。
企業の雇用拡大意欲は、引き続き強いと見られる。
実際の雇用者数の推移を、全規模全産業ベースで見ると、06年12月末、07年3月末、同6月末、同9月末の前年比が、+2.0%、+2.0%、+2.3%、+2.6%と少しずつ伸び率を高めている。これが家計消費の底固さを支えて行くかどうか注目される。
【本年度下期は内需が支え輸出は鈍化】
以上、12月調査「日銀短観」の特色を見て来たが、注目される諸点は次の通りである。
本年度下期の売上高の伸びが鈍化するのは、輸出の伸びが大きく鈍るためであるが、それでも輸出の伸び率は内需の伸び率よりもやや高い。つまり、下期は内需の堅調に支えられるが、輸出主導型は崩れない。
これを大企業製造業について見れば、以下の通りである。
この輸出鈍化は、米国の成長減速を、内需堅調は設備投資と雇用の伸びを、それぞれ見込んでいるためと見られる。
【内外需関連企業の収益の差は輸入価格上昇の転嫁力の差を反映】
内需堅調、輸出鈍化にも拘らず、「業況判断」や収益計画の悪化は内需関連企業の方が輸出関連企業よりも大きいのは、輸入資源・エネルギー価格の上昇を販売価格に転嫁する力の違いによるものであろう。内需関連では国内価格が安定しているため、転嫁しにくく、輸出関連では世界の物価上昇基調に合わせて転嫁し易いと見られる。
本年度下期の収益悪化が、来年度の経済にどう響いて来るのかは、来年度計画を調べる3月調査「日銀短観」までは不透明である。来年の米国の成長減速がいつ底を入れると輸出企業が見ているか、日本の設備投資と雇用の堅調が、本年度下期の収益悪化の下でも崩れないか、などがポイントとなろう。