年頭所感ー06年の回顧と07年の展望(H19.1.1)


明けまして、おめでとうございます。

【06年の経済成長は消費不振で減速】
 昨年は景気回復の5年目に当たりますが、企業と家計の格差がますます開き、それが経済成長に影を落とし始めた年でした。
 06年度の経済成長の予測は、民間の13調査機関の平均で+1.9%と、05年度の実績(+2.4%)に比して鈍化する見込みです。特に四半期ごとの推移を見ると、06年度に入ってからの成長減速は一層明らかです。
 下の表に示したように、05年度中の4つの四半期(05/U〜06/T)の平均成長率は、年率+2.7%ですが、06年度に入ってからの2つの四半期(06/U〜V)の平均成長率は、同+1.0%と半分以下に鈍化しています。06年度の平均成長率の予測が+1.9%と+1.0%より高めに出ているのは、前年の05年度中の毎四半期平均+2.7%の成長のお陰で、06年度の平均水準がいわゆる「ゲタ」をはいたためです。
 成長減速の原因は、下の表に明らかなように、家計消費が増えなくなったためで、反面企業の設備投資はますます勢いがついています。
                    GDP  家計消費  設備投資   輸出
 05年度平均             2.4      1.9       5.8     9.0
 05年度4四半期の平均      2.7     1.8       5.4     13.0
 06年度上期2四半期の平均   1.0    △0.9      9.8     6.6
                                (単位%、実質年率)

【家計と企業の所得格差は06年中に更に拡大】
 景気回復の5年目だとか、今回の景気は戦後最長の「いざなぎ景気」を超えたとか言われても、一般の国民の実感とかけ離れているのは、このような家計と企業の格差拡大によるものです。
 家計消費の元となる所得を「雇用者報酬」によってみると、06年7〜9月期の水準は、今回景気回復が始ったとされる02年1〜3月期の水準に比べて―1.7%低いところにあります。つまり、今回景気回復の過程で、雇用者の報酬は全く増えていないのです。
 ところが、企業、特に大企業の所得を「日銀短観」の売上高経常利益率でみると、06年度の予想は、今回景気回復期の最高であるばかりか、何とバブル期のピークを大きく上回っています(このHPの<最新コメント>“景気の持続は確認できたが再利上げの材料は乏しい―12月調査「日銀短観」を読んで”H18.12.15参照)。

【雇用者所得は回復が遅れているだけか、構造的停滞か】
 企業はこのように儲けているのに、何故それを賃上げで雇用者に還元しないのでしょうか。その理由を巡って、いま二つの解釈が対立しています。そして、そのどちらが正しいかによって、今年の経済、更には中期の展望も変ってくるのです。
 一つは、今後次第に人手不足が進めば、よい人材を確保するために企業は賃上げ幅を拡大し、雇用者の所得も増えて来るという見方です。雇用者所得の増加が企業収益の増加に遅れているだけで、今年あたりからキャッチ・アップして大きく増加し始めるという説です。日本銀行はこの説です。
 もう一つは、国際競争が激しく、また日本の企業の活動も国際化して低賃金国に工場を持っているので、国内の賃金水準を上げるよりも海外生産を増やす道を取るという説です。また、米国と中国に支えられた海外市場の高い伸びがいつまで続くか分からないとか、「失われた10年」の間に雇用者削減の難しさが身にしみたので、賃金水準の高い正社員の採用を抑えているといった、先行き不安に基づく慎重な経営態度も響いているという説です。

【07年経済は好循環と悪循環の分岐点へ】
 この両説のいずれが真実に近いのかによって、今年以降の日本経済の展望が変ってきます。
 前者の説であれば、今年から雇用者報酬の増加によって家計消費が増え始めるので、設備投資と並んで国内消費が伸び続け、多少海外市場の拡大が鈍化しても、息の長い成長が続くという楽観的なシナリオになります。そうなれば、租税の自然増収が増え続けて財政赤字の縮小が続くので、増税の必要性も薄れ、ますます成長が持続するというハッピーな展望になります。
 ところが後者の説であれば、今年も家計消費は振るわず、設備投資の伸びもピークを過ぎ、世界経済の減速で輸出も鈍化し、経済成長率は、潜在成長率の2%弱を下回り、需給ギャップの再拡大で企業の収益率も落ち始めるという暗いシナリオになります。最悪の場合は、消費者物価の下落で再びデフレ経済に戻るかも知れません。
 そうなると、税収が落ちて財政赤字が再拡大し、政府は消費税を中心とする増税路線に向かい、ますます消費は弱くなるので、経済は悪循環に陥ります。

【民主党は参院選で悪循環回避の政策を提示せよ】
 この二つのシナリオのどちらに進むかによって、今年の政治決戦の様相も変ってくるでしょう。7月22日の参院選の時点で、前者のシナリオが見えていれば、政府・与党にとって有利です。そうではなくて、後者のシナリオへ行きそうな不安が出ていれば、野党にとって有利でしょう。
 現在のところ、安倍内閣の支持率はジリジリ下がっていますが、しかし民主党の支持率は必ずしも上昇していません。国民にアピールするような実現性の高い格差是正対策や、それに基づく成長持続の展望を民主党が有効に打ち出していないように見えるからです。
 二つのシナリオのうち、悪い方のシナリオに行かないようにする経済戦略は何なのか、民主党は少し真剣に考えて、国民に訴えたらどうでしょうか。自民党の経済戦略は、名目成長の促進によって、良い方のシナリオを実現しようということですが、具体的な戦術が政策面ではっきり出ていません。むしろ企業減税と参院選後の消費税引上げで、ますます企業と家計の格差を拡大し、悪いシナリオへ向かうリスクさえあります。
 民主党のマクロ経済の戦略と戦術は何なのか、自民党よりも国民に訴えるものがあるのか、それらを国民に分り易い形で打ち出せるかどうかによって、今年の政治決戦の帰趨が大きく左右されるでしょう。