景気回復に主役交替の動き(H17.7.13)
─ デフレ脱却、ゼロ金利解消の目途 ─
【日本経済の転換点、デフレ脱却とゼロ金利解消も日程に】
日本の景気回復に、新しい主役交替の動きが出てきた。輸出関連製造業に主導された回復から、対個人サービス非製造業に主導された回復への選手交替である。
もしこの動きが定着してくると、全国消費者物価(除く生鮮食品)の前年比がゼロ%以上となってデフレが解消し、日本銀行が量的緩和・ゼロ金利政権を解除する日も、今年の秋から来年前半に現実の日程に上ってくるだろう。
日本経済はいま、大きな転換点に差しかかっている。
【今回の輸出主導型景気回復とその失速】
今回の景気回復は、01年4〜6月期から02年1〜3月期までマイナス成長が4四半期続いた後、02年4〜6月期から始まった。途中03年1〜3月期のマイナス成長を唯一の例外として、04年1〜3月期までの8四半期、2年間はプラス成長を続けた。
この8四半期に実質GDPは+5.6%成長したが、その成長に対する純輸出の寄与率は+29.4%に達し、更に輸出関連製造業を中心とする設備投資の寄与率(+26.8%)を加えると、成長の過半は輸出と関連設備投資に主導されたことが分かる。
その後04年4〜6月期と7〜9月期はマイナス成長、10〜12月期はほぼゼロ成長となって、日本経済は失速することになった。その主因は、純輸出の成長寄与度が7〜9月期以降マイナスに転じ、また設備投資の伸びが頭打ちとなって成長に寄与しなくなったからである。
同じ時期、04年7〜9月期と10〜12月期に鉱工業生産も前期比マイナスとなった。
輸出主導型の回復は完全に失速したのである。
【本年1〜3月期は純輸出がマイナスの下で4.9%成長】
ところが、本年1〜3月期になると、純輸出の成長寄与度は相変わらずマイナスを続け、鉱工業生産も横這いを続ける中で、実質GDPは+1.2%(年率4.9%)という高い成長を記録した。成長の半分は個人消費の増加によるもので、更に設備投資の久方振りの増加も寄与した。両者だけで、+1.2%成長のうち+1.0%の成長を実現した。
もしこの個人消費の増加が、高収益を挙げた輸出関連製造業における雇用・賃金の回復によってもたらされた動きであれば、輸出主導型回復の延長線上の動きと言える。
しかし、雇用統計を見るとそうではない。
【雇用の回復は製造業ではなく対個人サービスの非製造業で起こってきた】
最新の5月の統計を見ると、就業者数(総務省調べ)は前年比46万人増えて6435万人となったが、製造業(1135万人)は前年比4万人減っている。増えたのはサービス業(922万人)の33万人増と医療・福祉(571万人)の41万人増である。
また同じ5月の常用雇用者数(厚労省調べ)は、前年比+0.5%(22万人)増えて4314万人となったが、このうち製造業(861万人)は僅かに+0.6%(6万人)の増加にすぎない。これを上回る伸び率を示しているのは、医療・福祉(434万人)の+3.0%(13万人)増、情報通信(149万人)の+2.7%(4万人)増、各種サービス(636万人)の+1.2%(7万人)増、教育学習支援(259万人)の+1.6%(4万人)増である。
この4業種を広義の対個人サービスと呼べば、合計常用雇用者数は1479万人で製造業の1.7倍である。この分野における雇用の回復を背景に、個人消費が増えることによって、純輸出がマイナスの下での+4.9%成長が実現したのである。
6月調査の「日銀短観」を見ても、大・中堅・中小の全規模企業の合計でみて、非製造業の「雇用人員判断」DIは、現状が既に−2%ポイントの「不足」超であり、先行きは更に−5%ポイントの「不足」超に拡大する。これに対して製造業は、依然として「過剰」超である。
【非製造業の雇用回復を支える個人消費の構造変化】
対個人サービスの雇用拡大を支えているのは、個人消費の構造変化である。
本年1〜3月期の全世帯消費支出(実質)をみると、合計は前年比−0.5%の減少であるが、内訳は財に対する支出が同−1.4%の減少であるのに対して、広義サービスに対する支出は同+0.7%の増加である。広義サービスのうち特に増加が目立つのは、保険医療+4.3%、交通通信+2.0%、光熱水道+2.4%、教養娯楽+0.3%などとなっている。これらの支出が1〜3月期の個人消費の増加、ひいては4.9%成長を支えたのである。
この支出傾向はその後も続いており、最新の4月と5月も、財に対する支出は前年比マイナス、広義サービスに対する支出は前年比プラスが続いている。
少子高齢化が進む中で、高齢者の医療介護への支出、子育て期の教育への支出、若い人々の通信への支出が伸びているのであろう。
【設備投資も製造業は鈍化、非製造業は加速】
輸出関連製造業から対個人サービス非製造業へのシフトは、雇用面に顕著に出ているが、設備投資面にもシフトの兆しはある。
6月調査の「日銀短観」によると、大・中堅・中小の全規模企業の設備投資額(ソフトウェアを含み、工地投資額を除く)合計は、前年に比し、製造業が04年度の+16.4%から05年度の+12.8%に鈍化するのに対して、非製造業は04年度の+0.5%から05年度の+6.8%に加速して来る。中小企業非製造業の設備投資計画は年度初めには未だ固まっていないケースが多く、6月調査では低目に出るのが常であるから、今後の計画はもう少し増えてくるであろう。
【デフレ脱却、ゼロ金利解消が日程に上ってくる】
本年4〜6月期も対中国向け輸出の鈍化などから、純輸出は引続きマイナスとなり、輸出関連製造業主導の回復は失速状態を続けるであろうが、対個人サービス非製造業の雇用回復に支えられた個人消費と設備投資が伸びると、マイナス成長を免れるであろう。
5月の全国消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)は前年比ゼロとなった。これはガソリン価格の高騰が大きく響いたものであるが、前年のガソリン価格は5月ではなく6月に大きく上昇したので、6月の消費者物価は再び前年比マイナスになるかも知れない。
しかし、輸出主導ではなく、対個人サービス主導のプラス成長が4〜6月期以降も続いていくと、需給面からも消費者物価に上昇圧力がかかってくる。
昨年10月から本年1月までの米価値下がりと通信料金引下げの影響が、消費者物価の前年比マイナス幅から消えるのは本年10月以降であり、来年上期から消費者物価の前年比が継続的にプラスに転じる可能性がある。
そうなると日本銀行の量的緩和政策も解除に向かい、ゼロ金利時代も終わって金融が正常な姿に戻るであろう。
いまはそこに向かうかどうかの曲がり角である。