株価回復が一服した経済的背景(H15.7.22)


【株価と長期金利の回復はバブルの破裂】
   株価と長期金利が、極端に落込んだ水準から3〜4割回復したが、このところ一服している。日経平均で日中には一時的に1万円を超えた株価も、終値では抜けず、このところ9千円台で行きつ戻りつしている。長期国債の市場利回りも、瞬間的には1.4%に達する場面もあったが、最近は1%弱で落着いている。
   3〜4割の回復も、最近の一服状態も、それぞれ経済の中に理由があり、それが市場心理に反映した面が大きい。
   まず回復の理由から見よう。回復したとは言っても、水準としてはまだ極めて低いことから分かるように、極端な先行き不安感や悲観論に基づく株価の逆バブルと長期国債価格のバブルが破裂したのである。

【下期の米国経済の回復期待】
   極端に弱気化した先行き感が修正された理由は、いくつか考えられる。
   第一は、本年下期の米国経済の回復期待だ。上期の米国経済は、イラク戦争の見通し難と現実のガソリン価格の高騰で、企業マインドも消費者マインドも萎縮した。しかし、イラク戦争は短期に終り、ガソリン価格も下った。その上、下期には大型減税が始まり、利下げの効果も出てくる。これによって下期の成長率は上期に比して高まりそうだ。
   そうなれば、年初来減少傾向を辿ってきた日本の輸出が再び増加に転じ、日本の成長率も上期のゼロ成長から若干のプラス成長に回復するであろう。その上、米国の株価が上昇すれば、日本の株価が連動するかも知れない。

【製造業の設備投資に回復の兆】
   第二に、6月調査の「日銀短観」によると、本年度の大企業製造業の設備投資計画が上方修正され、前年比+11.5%の増加となった。これを含む全規模全産業の設備投資計画も、前年度実績の前年比−7.7%から本年度は同−0.1%とほぼ横這いになる。このうち中小企業の計画は現在−13.0%の大幅減少であるが、年度の経過と共に計画が固まって上方修正されるのが普通であるから、最終的には本年度の設備投資が全体として経済成長のけん引力に転じる可能性が出てきた。
   先行指標の機械受注(民需、除船舶・電力)は、予想では4〜6月に前期比−10.5%の大幅下落となっているが、4、5月の実績平均は前期比横這いである。イラク戦争開始直前の極端な先行き警戒感が薄れたためであろう。

【企業の業績は2年連続の2桁増益】
   第三に、本年度の企業実績の予想が好転している。同じく6月調査の「日銀短観」によると、全規模全産業ベースで見て、本年度の増収率は+0.2%とほぼ横這いの予想にとどまっているが、増益率は0.9%上方修正されて+9.5%となっている。特に製造業の増益率は、大企業が+11.6%、中堅企業が+15.6%、中小企業が+29.2%に達している。
   売上高横這いの下で2桁の増益予想となっているのは、企業のリストラ努力による損益分岐点操業度の低下によるもので、この結果売上高経常利益率は、大企業と中小企業でバブル崩壊後の最高水準となる予想である。
   第四に、悲観一色であった個人消費にも変化の兆がある。5月の一人当り名目賃金が、2年1か月振りに前年を上回った。その背後には、本年のベア率の加重平均値が1.65%と、6年振りに前年(1.59%)を上回ったという事実がある。これも企業業績好転の結果である。

【米国経済は中期的には調整両面にある】
   以上の四つの動きは、確かに先行き観の変化を誘う動きである。しかし、これで日本経済が回復に向うかと言えば、疑問に思う。その事に市場も気が付いているからこそ、バブルが破裂してやや戻った後は、相場の動きが止まっているのではないか。
   まず米国経済は、本年下期に成長率が高まるとしても、上期停滞の反動という面が強いので、その先が分からない。93年頃からの8年間程の連続好況の結果、企業の設備ストックは過剰気味であり、家計の負債ストックも過大である。その中期的調整はまだ終っていない。むしろ、減税や利下げによって、調整が先送りされている。来年の大統領選挙を控えて、無理に政策で支えれば支える程、先へ行ってその反動は大きくなるかもしれない。
   従って、来年以降米国経済が世界経済の発展を牽引し、日本も輸出主導で成長するというシナリオは描きにくいのである。

【投資と消費の本格的回復を期待するのは早すぎる】
   そうなると、輸出関連を中心とする製造業の設備投資回復も、中期的調整の終ったIT関係を除くと、あまり大きな期待は持てない。更に、国内向け製造業と非製造業の設備投資は、個人消費、住宅投資、公共投資の停滞ないし減退の下では、当分回復しないのではないか。
   国内の投資機会を増やす規制緩和が遅々として進まないことも、悲観的材料である。
   製造業を中心とする企業収益の回復と、ベア率の上昇は、一見すると国内需要回復に結び付きそうであるが、内実はそうではない。
   リストラによる収益回復とベア率の上昇であるから、一人当りの賃金は増えても雇用者数は減っている。従って、一人当り賃金と雇用者数を掛け合わせた賃金支払い総額は、依然として前年水準を下回っているのである。これではマクロ的な個人消費や住宅投資の回復には結び付かない。
   以上のように、株や長期国債のバブルを破裂させた先行き感の好転は、経済の基本的な回復に根差す動きではない。従って株価や長期金利の上昇が一服したのは、もっともな事である。