ドクター鈴木経済学博士  
やさしい月例景気見通し
自由党衆議院議員 鈴木淑夫 2003年7月号

【下期の米国経済回復で日本の輸出が伸びる期待が出てきた】
日本経済の足許は相変わらず冴えない動きをしていますが、ここへ来て株価が回復しています。株を買う人は、企業の業績が今よりは良くなると思って買っているのでしょうから、この事は企業業績の背景にある日本経済が現在よりも将来の方が良くなると見る人が増え始めたためでしょう。その根拠を探してみましょう。
まず第1に、今年のアメリカの経済成長率が、上期よりも下期の方が高くなりそうです。上期はイラク戦争の不安感で消費マインドも投資マインドも冷え込みましたが、戦争が短期で終りガソリンも値下りしたのでほっとしています。その上、大型減税や利下げなどの景気テコ入れ策の効果が出てきます。
下期の米国の成長率が上がると、米国の株価上昇に連動して日本の株価にも好影響が及びます。また減少している日本の輸出が増加に転じ、現実の景気にも好影響があるでしょう。

【大企業中心に収益と設備投資が回復する予想も】
第2に、景気が停滞しているにも拘らず、企業収益が回復基調にあることです。8343社を対象とした日銀のアンケート調査によると(回収率97.9%)、本年度の売上高の予想はほとんど横這いですが、収益は前年度に続いて10%程の増益と予想しています。これはリストラの効果が出ているためで、とくに製造業の売上高対経常利益の比率はバブル崩壊以降の最高水準になると予想されています。
第3に、過去10年間は、このような企業収益をバブル期に購入した不動産の売却損や過剰設備の廃棄に伴なう損の穴埋め、銀行借入の返済など、いわば後向きの敗戦処理に使ってきたのですが、それもそろそろ峠を越し、設備投資、雇用拡大、賃金引上げなど前向きの資金に使う大企業が出てきたことです。
同じ日銀のアンケート調査では、大企業と中堅企業の本年度の設備投資は増加に転じる計画になっています。また日本経団連調べの大手294社のベア率は、今年は1.65%と6年振りに僅かですが前年(1.59%)を上回りました。

【輸出関連の大企業製造業の回復だけでは本物ではない】
このような話を聞くと、売上減少に悩む商店街や苦しい経営を続ける中小企業の方々は、どこの国の話だと憤慨されるかも知れません。
それは当然です。足許の日本経済は、個人消費も住宅投資も、設備投資も公共投資も、皆停滞しているか減少しているからです。株価を少し回復させているのは、輸出関連の大企業製造業を中心とした将来見通しにすぎません。
ですから今大切なことは、大企業製造業の設備投資、雇用、賃金の回復が、国内の中小企業や家計全体の立直りに波及して行くのをただ待っているだけではダメだということです。今のように対米輸出だけを頼りにする政策態度ではなく、輸出産業の回復と並んで、国内産業にも同じ動きが広がるのを助ける国内需要の喚起政策が必要です。私は思い切った規制撤廃で国内のビジネスチャンスをもっと増やすこと、地方バラ撒きの箱型公共投資をやめて、防災、環境、交通の観点から世田谷のような大都市の街を再整備する公共投資を増やすこと、など沢山あると思います。



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