ドクター鈴木経済学博士  
やさしい月例景気見通し
自由党衆議院議員 鈴木淑夫 2002年10月号



―暑い夏のお陰で足許の景気はまずます―
 足許の景気動向は、谷底を這いながら少しずつ上向いています。6月と7月に足踏みをしていた製造業の生産活動は、8月からまた緩やかに増え始めました。これを引張っているのは、乗用車、電子部品、機械などの輸出好調業種です。
 今年の夏は暑い日が続いたので、夏物商品(エアコン、衣料品、飲料品など)の売れ行きが比較的好調でした。また秋に向けて新型車の発表が相次いでいるので、乗用車も軽自動車や小型車を中心に、前年を上回る売れ行きをみせています。
 このような足許の動きとは裏腹に、今後の景気展望が暗くなっているのが、いまの日本経済の最大の問題点です。

―企業は日本経済の先行きに自信を失ない始めた―
 日本銀行が9月に行った企業向けのアンケート調査によると、企業は業況の回復が今後鈍ってくると見ています。本年度の売上高も、3ヶ月前のアンケートでは少し増えると見ていたのに、今回のアンケートでは去年より減ると出ています。
 このような悲観的な予想は、主に二つの理由によるものです。一つは、今年の始めから景気の底入れをリードしてきた輸出の増加が、米国やドイツの景気変調や年初来の円高などの影響で鈍っていることです。先行き輸入の伸びを下回って景気を引張る力を失うのではないかと心配される程です。
 もう一つは、企業は相変わらず生産の回復を時間外労働や臨時工で賄ない、常用工の雇用や賃金を抑えています。このため暮しの向上に結び付く個人所得は増えず、夏場の個人消費立直りも一時的で、この先再び反動減になるのではないかと心配されています。

―株価の大幅下落が銀行と生命保険会社を直撃―
 先行きを警戒しているのは企業経営者だけではありません。内外の投資家も秋以降の日本経済を警戒の目でみています。このため日本の株式が売られ、9月に急落した株価は10月に入って更に一段と下がり、バブル発生のずっと以前の1980年頃の水準になってしまいました。
 こうなると、株式をお持ちの個人はお困りでしょうが、株式を沢山持っている銀行と生命保険会社が一番困っています。株式値下りによる損失で経営があぶなくなれば、預金者や保険者などにも影響が及ぶので、他人事ではありません。
 このため日本銀行は、銀行の保有株式の一部を買上げることにしましたが、「やらないよりまし」程度の救済効果しかないでしょう。

―補正予算無し、減税小規模、不良債権処理は強行―
 株価下落の最大の原因は、政策に対する不信です。景気底入れをもたらした輸出が鈍っているのですから、今こそ構造改革に沿った形の国内景気対策を打つべき時です。しかし小泉首相は本年度当初予算の国債発行30兆の枠を堅持し、それ以上の国債発行をしないと言明しているので、景気に有効な補正予算をこの秋に組むことが出来ません。
 来年になったら減税をすると言うのですが、規模は1.5兆円程度で、それも将来の増税予告付きです。医療費個人負担、健康保険料、介護保険料、雇用保険料の引上げと年金支給額の引下げで3兆円も国民負担が増える時に、この程度の減税では効きません。
 更に小泉首相は、柳沢金融担当大臣を更迭して竹中経済財政担当大臣に兼務させ、不良債権処理を急ぐよう指示しました。これが企業倒産を増加させ、景気を一段と冷すのではないかと恐れられています。
 私は有効な景気対策(将来の歳出削減と自然増収を財源とする3兆円以上の先行減税)を打たない限り、不良債権処理は進まず、混乱は増すばかりだと思います。



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