ドクター鈴木経済学博士  
やさしい月例景気見通し
自由党衆議院議員 鈴木淑夫 2002年8月号



―景気底入れどころか失業率は上昇、ボーナスは減少―
 日本経済には一向に「景気底入れ」の実感がありません。この2ヶ月の間に失業者は14万人増えて361万人となり、失業率は5.2%から5.4%へ上昇しました。
 大手企業221社でさえ、この夏のボーナスは去年の冬のボーナスを5.6%下回ったと発表されています。中小企業の実態はもっと悪いでしょう。
 政府の「景気底入れ」宣言から3ヶ月たちましたが、国民の暮しは底入れどころかまだ悪化しているのが実情です。

―好調な輸出が雇用改善に結び付かない―
 日本経済の中で一人健闘しているのが輸出です。とくに日本の輸出の40%近くを占める東アジア向けは、前年を13%も上回って伸びています。中を見ると、電子部品、その製造装置、自動データ処理機械、通信機など情報関係が目立ちます。この分野では、日本はまだまだ強いのです。
 製造業の生産活動は、これらの輸出好調業種が引張っているため、夏場も上昇を続けそうです。それなのに雇用や賃金が改善しないのは、企業がこの生産回復が秋口以降も続くかどうか自信が持てないからです。このため、とりあえず時間外労働で対処し、どうしても人手が必要な場合にも臨時工の一時雇いに頼っています。

―円高と米国の景気失速で輸出の先行きに不安―
 秋口以降の日本経済には、心配なことが沢山あります。
 まず、輸出が今の好調を続けることが出来るかどうかの不安です。今年の初めに1ドル=135円前後であった円相場は、最近では115円から120円の間を上下するほど円高になりました。中国をはじめとする東アジア諸国の為替相場は米ドルに固定していますので、米ドルに対する円高は東アジア諸国の通貨に対する円高にもなるのです。日本の輸出の40%弱が東アジア向け、30%弱が米国向けですから、いまの円高の悪影響が秋口以降に出てくる恐れがあります。
 もう一つの心配は米国の景気です。米国経済は今年の1〜3月期には年率5%も成長したのですが、4〜6月期の成長率は1%に急減しました。消費が鈍化し、設備投資が減り続けているためです。米国の景気が悪くなると東アジアの景気にも悪影響が出ますので、秋口以降、日本の輸出がいまの好調を維持できるか不安があるのです。

―30兆円枠で補正予算は不可能、国民負担は3兆円増加―

 日本国内にも不安があります。7月31日に終った通常国会では医療制度改革法案が成立し(私は反対しました)、来年4月から国民の医療費自己負担が1.5兆円増加します。その上、介護保険料と失業保険料の引上げ、年金給付額の物価スライドによる引下げが検討されているので、3兆円を超える国民負担の増加があるかも知れません。これは3兆円増税と同じことですから、政府がいま検討している1兆円超の法人税減税が実施されても、差引き2兆円の増税が残る計算になります。
 また秋口以降、景気変調に気付いて補正予算を組もうと思っても、本年度は既に30兆円の国債発行枠を使いきっているので、小泉首相が30兆円枠に固執する限り、補正予算は組めないのです。
 私なら長期の財政再建と短期の景気対策を区別し、将来の歳出削減を財源として、いま減税と国民負担の軽減を計るでしょう。



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