ドクター鈴木経済学博士  
やさしい月例景気見通し
自由党衆議院議員 鈴木淑夫 2002年7月号



― 景気底入れ宣言をしたのに株価は下落―
 政府が「景気底入れ」宣言を出してから2ヵ月がたちましたが、この2ヵ月間、日本の株価は一向に上昇せず、むしろ少し下がっています。1万2千円に近かった日経平均株価は1万1千円台を割り込んでいますし、全銘柄の平均を示すTOPIXは1100台から1000近くに下がっています。
 日本の株価は、長い目でみると景気に対して半年ぐらい先行して動いていますので、もしこの経験則が今回も当てはまるとすれば、景気はこの後年末頃までは回復せず、谷底を這って行くことになります。
 これには、国内の経済状況、海外の経済状況、政府の政策に対する不信などいくつかの理由が考えられます。


― 生産回復に早くも頭打ちの気配―


 まず国内経済ですが、製造業の生産は2月から5月まで4ヵ月連続して上昇しましたが、これ迄の落ち込みが激しかっただけに、上昇したと言ってもまだ4年前の橋本不況時のボトムの水準に過ぎません。ですから失業率は5月に再び5.4%に上昇し、戦後最悪の水準にあります。
 しかも、この先6月と7月の生産は早くも増加が止まり、頭打ちになるという予測が出ています。昨年末までに過剰在庫の調整が終り、今年に入って在庫補充のための生産回復が起ったのですが、在庫補充もぼつぼつ終りになってきたからです。あとは、出荷が本格的に回復しない限り生産増加は続きません。


― 企業業績は回復しても雇用と設備の拡大はまだ―

 ところが、出荷を決める最終需要は、輸出を除くとすべて弱いままです。雇用と賃金が悪化を続けているので個人所得は低迷しており、GDPの6割を占める個人消費に回復の動きはありません。わずかに軽乗用車と小型乗用車の売れ行きがこのところ良いのですが、その分他の消費が節約されているので、全体として消費が景気を引張る力はありません。
 日銀が6月に行った企業アンケート調査によると、生産上昇で企業のマインドは少しずつ改善しているのですが、それでも雇用と設備を抑制しようというリストラの構えは崩していません。設備投資計画は、2002年度もマイナスです。景気回復のエンジンとも言うべき設備投資には、今のところ回復の兆は見えません。


― 円高と米国の景気回復鈍化が輸出の心配材料―


 唯一、出荷の増加を引張っているのは輸出ですが、それもここへ来て二つの不安材料が出てきました。一つは輸出増加で貿易収支の黒字が増えるにつれて、1ドル=120円を割り込むような円高が進み、輸出にブレーキが掛かる心配です。
 もう一つは、輸出増加の原因である米国の景気回復が、ひと頃の勢いを失ってきたことです。4〜6月期は1〜3月期に比して成長が鈍化するのではないかと見られています。設備投資の回復にリードされた本格的な景気上昇は来年以降との見方が増えています。このため米国の株価も下落しており、これがまた日本の株価に悪影響を及ぼしています。


― 景気対策と財政再建がゴチャゴチャ―

 このような内外情勢の下でも、政府の景気対策が国民に信頼されていれば株価は下がらないのですが、6月に開かれたカナダのサミットに小泉総理が持っていったデフレ対策は説得力に乏しい内容でした。投資減税の財源として、公共投資1割削減や赤字企業を含む企業全体への外形標準課税の導入を考えているようでは、元気が出る筈はありません。中期の課題である財政再建と短期の景気対策とをゴチャゴチャにしていては、財政再建も景気刺激も共に失敗するでしょう。2兎を追う者は1兎をも得ずです。


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