ドクター鈴木経済学博士  
やさしい月例景気見通し
自由党衆議院議員 鈴木淑夫 2002年5月号



− 生産は下げ止まっても、深い谷底を這っている状態−

 今年に入って、日本の製造業の生産活動は2月、3月と2か月連続して上向きました。 このため政府は「景気底入れ宣言」を出すとか出さないとか言っています。
 しかし国民の実感は、底の見えない悪化がようやく止まってきたかなという程度で、相変わらず深い不況の谷底を這っているという感じではないでしょうか。
 それもその筈で、少し上向いたとは言っても、現在の生産活動の水準は、橋本内閣の政策不況でマイナス成長に陥った平成10年のボトムをまだ下回っているのです。今回の景気後退における生産の落込み幅は、平成12年12月から本年1月まで15%にも達する急激なものであったからです。

― 求人や雇用には改善の動きが見られない ―

 企業の経営者は景気の先行きについて慎重な見方をしていますので、当面の生産増加には時間外労働の増加で対処しようとしており、雇用を増やす動きは見られません。雇用者も求人数もまだ減り続けています。このため最新の完全失業者数は353万人(3月),完全失業率は5.2%(同)と高水準のままです。実際は、求職活動をあきらめた人や企業内で失業同様の状態になっている人も居るので、失業率の実勢はもっと高いとも言われています。
 国民の暮らし向きの改善に結び付くような雇用や賃金の回復は、この程度の生産の下げ止まりからは生まれません。従って個人消費が回復する兆はなく、商店街は引続き厳しい経営環境が続くでしょう。

− 輸出回復という他力本願では本当の回復は無理 −

 生産の下落が止まってきた理由は、電子部品、鉄鋼、自動車などの業界で,対米輸出が回復し始め、過剰在庫が捌けてきたからです。いわば米国の景気回復という他力本願の動きにすぎません。
 しかし、世界の中で高い競争力を持つ日本の輸出産業は、日本の就業人口のうちの1割しか雇っていません。残りの9割の人々は国内向けの製造業、建設業、サービス業、流通業などで働いています。従って、個人消費、住宅建設、設備拡張などが活発化しない限り、この9割の人々の暮らしが改善するような雇用や賃金の回復はないのです。
 ところが、鷄と卵のように、この人々の雇用や賃金が回復しないので個人消費と住宅建設は沈滞したままですし、景気の見通しが慎重なので設備投資は減少を続けています。

― 大都市再開発、ゴミ処理、介護などの公共投資を ー

   このような時は、本来であれば財政政策の出番なのですが、小泉内閣は公共投資を減らし、国債発行を30兆円以下に押さえることが構造改革だと信じ込んでいるので、財政面からも景気の足を引張っているのが現状です。
 私は、無駄なバラ撒きの公共投資を削減する一方、立体交差化などの大都市再開発、産業廃棄物やゴミの処理施設、介護施設などの公共投資は増やし、全体として効率のよい公共投資によって、少なくとも公共投資総額の減少を避け、景気を支えるべきであると主張しています。

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